Uncle Meat ★★★★★

Uncle Meat

The Mothers Of Invention / Uncle Meat

::★★★★★::1969a::Bizarre::pop::rock::
iTMS US

(zappa catalog #7)

個人的にはこのアルバムと次の「Hot Rats」がザッパ60年代、いや、すべての時代を通じてのハイライト。「Hot Rats」は純粋なザッパのソロ作だから、「マザーズ」の最高傑作としてはこれが一番でしょう。音の万華鏡としか表現しようのないような、とにかくおそるべき作品。

冒頭の「Uncle Meat: Main Title Theme」の、ハープシコード、木琴、スネアドラム、アルトサックス(オーボエ?)のきらびやかな音の洪水を最初に聴いたときの衝撃は忘れられません。それはもちろんぼくが当時まだ若くて音楽の様々な可能性に対する免疫があまりできてなかったというのもあるのですが、しかし今聴いてもなお新鮮に響きます。

当時作成していたという同名映画のサントラであったというこのアルバムは、基本的にはインストゥルメンタル・アルバムで、ボーカルが入っている曲は少数です。これは、比較的ボーカルや、「言葉」の比重が大きかったこれまでのマザーズのアルバムを考えると(インスト・アルバムだった「Lumpy Gravy」はザッパのソロ名義でした)、一種の転機であると言えるでしょう。つまり、R&B、ドゥーワップベースの一風変わった解釈のロックンロールをやっていたひとつの「バンド」としてのユニットから、より実験的な「プロジェクト」への転機。

また、音楽的には、これがザッパの現代音楽へのアプローチの一つの大きな結実であると考えることができます。しかし、現代音楽的といっても、このアルバムは実にポップでして、ポップミュージックと現代音楽がシームレスに融合したという点でも目を見張るべき成果だと言うことができると思います。てゆーか、もう、ほんと、ポップなんですよ。やっていることは複雑なのですが、どこかユーモラスで愛らしい。

それは、このアルバムの(そしてオリジナル・マザーズ全体の)キーワードである「ローファイ」ということが大きく関係しているんですよね。オリジナル・マザーズはのちのザッパ・バンドと違って、必ずしも超技巧集団ではなかったので、ザッパの音楽的アイデアを補填する意味で、さまざまなスタジオ・エフェクトやコラージュがほどこされていて、それが卵一個を割るためにたいそうなプロセスを踏むガラクタ機械のような、ナンセンスなようでいて整合性のあるようなないような、不思議な音楽空間をつくりあげています。

なお、このアルバムのCDバージョンに少々の不満が。まず第一に、正直、LP盤に比べ、音が薄く、特に低音の深みがない。LP盤の音に感動した身としては少々納得いかない思いです。それから、ボーナストラックの、長々とした映画の抜粋が余分。ジミー・カール・ブラックの「Tengo na Minchia Tanta」は笑えるんだけど‥やっぱり、アルバムのパッケージとしての完成度をいちじるしく損ねているのは否めません。ちなみに海外のザッパ・ファンのあいだではこれらの「ボーナス・トラック」は「ペナルティ・トラック」と呼ばれているようです(笑い。たしかに、ご褒美というよりは罰っぽいボーナストラックです。これらのボーナス(orペナルティ)トラック抜きの純粋なパッケージで再発して欲しい。 (9/15/02)