フランク・ザッパについて(解説Top)

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Frank Zappa

フランク・ザッパ (12/21/1940-12/4/1993)
genre: pop/rock

メニュー

  1. オリジナル・マザーズ期 (1966-1970)
  2. フロ&エディ期 (1970-1972)
  3. ジャズ・ロック期 (1972)
  4. ルース・アンダーウッド期 (1973-1975)
  5. テリー・ボジオ期 (1975-1979)
  6. 80sザッパ・バンド (1979-1988) ‥近日オープン
  7. 現代音楽なザッパ (1966-1993) ‥近日オープン
  8. その他コンピレーションなど ‥近日オープン

【概観】


ザッパが癌で逝去してからもうかれこれ10年近い歳月が経ってしまいました。ザッパが「リアルタイムな存在」でなくなった今、若いロックファンの中のザッパのイメエジあるいは位置付けとはどういうものなんだろうかとふと思ったりします。

ぼくがザッパに触れたのは80年代半ば、のめりこんだのは80年代後半だから、ザッパのキャリアでいえばほぼ最後期ということになります(ロックミュージシャンとしてのザッパの活動は1988年の全米ツアーが最後だと言えるので)。というわけで、個人的に80年代のザッパにはとても思い入れがあります。しかしその後ぼくの音楽の趣味もかなり変遷したし、時代の音も変わりました。現在のぼくの耳で聴くと意外によいなぁと思うのは、80年代の若造のぼくが一番きらいだった「オーバーナイト・センセイション」あたりだったりします。この作品は、ザッパの代表作のひとつであり、ファンの間でも非常に人気の高い一枚ですが、音がこもりぎみでしょぼく、昔のぼくにはどうも馴染みませんでした。しかし、2002年現在聴くと、このしょぼさ、音のデッドさが良い感じがするのだからおもしろいものです。逆に80年代のザッパは音がクリアすぎて今はあまり聴こうと思わなかったりする(好きだけど)。若い世代のひとは90年以降に洋楽を聴きはじめたという人も多いだろうし、そういうひとが、88年でロックミュージシャンとしての活動を停止したザッパの音楽はどう映るんだろうかと興味深く思います。

そんな戯れ言はともかく。

ザッパの音楽を一言でいうならば「R&B+現代音楽」ということになるでしょう。「R&B」といってもヒップホップ以降の今時の黒人音楽のことではなくて、ソウルミュージックが生まれる前の「リズム&ブルーズ」という本来の意味でのR&Bです。ザッパはR& Bとかドゥーワップとかバブルガムとか、「愛すべきたわいのない音楽」の大ファンで、同級生だったキャプテン・ビーフハート(ことドン・ヴァン・ヴリート)といっしょにドーナツ盤を買い集めたりしていたそうです。一方、同じ時期、つまりティーネイジャーの時期、ザッパは現代音楽家のエドガー・ヴァレースの音楽にものめりこみます。当時(今でも?)ヴァレースは非常に不遇で、レコード屋でヴァレースの「イオニザシオン」が二束三文で叩き売りされていたらしく、それをビンボーなコドモであったザッパが買い、衝撃を受けたのがザッパの現代音楽開眼の瞬間であったそうです。その後、親に誕生日祝いは何がいいかと聞かれ、「NYに住んでいるヴァレースに長距離電話をかけて話がしたい」とリクエストしたほどザッパはヴァレースに入れこんだのだそうです。

R&Bやドゥーワップと現代音楽、この二極こそがザッパの音楽の中核をなしており、その構図は実は1966年のデビューアルバムから遺作まで、一切変わっていないのであります。時に難解だの複雑だの言われるザッパの音楽ですが、この二つのルーツに着眼すれば、ザッパの描く音楽像というものがおのずと見えてくるはずです。

また、この二極端のルーツがあるからこそ、ザッパの音楽はどんなに難解になってもユーモアやエンタテイメント性が失われないのです。ザッパの音楽が、表層的にはほとんどプログレと変わらない瞬間が多々あるにも関わらず、ザッパの音楽が「プログレ」と呼ばれないのは、ひとつにはこの「エンタテイメント性」があると思うのです。複雑で高度な音楽を追究する一方、それに耽溺せず一歩引いたところから自分の音楽をみつめ、ユーモアや楽しさ(それが悪趣味であったとしても)を混入させるのを忘れないのがザッパの良さだと思います。そのあたりが、シリアスであることを良しとする「プログレ」の枠にはまらなかったということです。(あと、もちろん、R&B、ドゥーワップ、ブルーズ、ソウル、ジャズなど、黒人音楽のルーツがわりに直接的に出ているのも、プログレと呼ばれない理由のひとつでしょう。)

ザッパは、音楽の力、そして音楽を支える大衆の力というのを信じていました。「Packard Goose」という1979年の曲があるのですが、そこで、音楽が禁止された近未来の完全管理社会という設定で、廃人同然の登場人物、Mary(デイル・ボジオ)が語る言葉に以下のようなものがあります。

  Information is not knowledge
  Knowledge is not wisdom
  Wisdom is not truth
  Truth is not beauty
  Beauty is not love
  Love is not music
  Music is the best...

ある意味この言葉がザッパの音楽への姿勢を示している気がしてなりません。音楽バカによる音楽バカのための音楽、それがザッパの音楽。

【Disc Reviews】


多作で知られるザッパですが、おおまかにわけると次の7期にわけることができると思います。カッコ内がおおよその年代(アルバム発売時期にもとづいているので、実際の活動時期とはずれがあります)。リンクをクリックすることでそれぞれの時期のアルバム感想文に飛ぶことができます。

  1. オリジナル・マザーズ期 (1966-1970)
    • 問答無用! 最強かつローファイな時代。真の「マザーズ」といえるのはこの時期だけ!
  2. フロ&エディ期 (1970-1972)
    • タートルズのボーカルデュオを迎えて、寸劇コメディー色の強いロック。
  3. ジャズ・ロック期 (1972)
    • ホーンを多数まじえて色彩豊かなジャズロックを。この時期あたりから器楽演奏のテクニックに重点がおかれるようになる、が、この時期はまだレイドバックした雰囲気。
  4. ルース・アンダーウッド期 (1973-1975)
    • はじめ歌ものロック中心、のちに超絶技巧集団に。ザッパが一番泥くさく黒かった時期でもあります。
  5. テリー・ボジオ期 (1975-1979)
    • 過渡期で、色んな意味で不遇でしたが、この時期に唯一の来日をはたしたこともあいまって、ファンも多い。ロック色強し。
  6. 80sザッパバンド期 (1979-1992) ‥近日オープン
    • 79年から88年まで、音楽性は一切変化してません。ある意味完成型か。ポップで聴きやすい。
  7. 現代音楽なザッパ (1966-1993) ‥近日オープン
    • 現代音楽的な要素はどの作品にもあるのですが、ここでは現代音楽に徹したアルバムをまとめてとりあげます。

(初稿:10/7/1996、最終改訂:9/14/2002)