唄ひ手冥利 ★★★

唄ひ手冥利~其の壱~

椎名林檎 / 唄ひ手冥利

::★★★::2002::Toshiba EMI::pop::rock::jp::
iTS US / iTS JP(→iTSについて

椎名林檎のカバーアルバムで、変態ベーシスト亀田誠治のアレンジによる「亀盤」(Disc 1)とキーボード・プレイヤーの森俊之のアレンジによる「森盤」(Disc 2)の二枚組、全18曲(収録時間は70分ほど)。全体にけっこう意表をつく選曲ですね。

まず亀盤ですが、こちらはかなり良い出来。従来の林檎路線で快調に飛ばします。特に素晴しいのがtr1「灰色の瞳」(原曲ウニャ・ラモス。って知らないけど)。加藤登紀子の日本語詞によるこの哀愁感あふれる昭和歌謡的な曲。スピッツ草野マサムネとのデュエットも完璧。tr5「白い子鳩」(朱里エイコ。これもしらんなー)も、昭和歌謡的で最高。椎名のボーカルも非常にパワフルでよろし。あとはやっぱり、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」。こんな、歌詞的にもメロディ的にもコード進行的にも変則的で非ロック的な曲、どうやってアレンジするんだろうと思ったけど、非常にうまく料理していて感心。キーボードがちょっと80年代ニューウェーブ的でおもしろい。けどやっぱりコードのひねり方が良いやね。さすが亀師匠。もともと男らしいところと女性らしいところが同居する椎名だけに、男女の書簡のやりとりという形式の歌詞もよくあっている気がする。都会へ出てはしゃぐ男と最初から悲しい結末がわかっていた女の温度差が悲しい。あと、ダークホース的によかったのは、椎名自身のアレンジによるシューベルトの「野薔薇」。キッチュなアレンジですが、これが実に椎名らしく、ああ、椎名のメロディセンスってこういうところにもルーツがあったんだと目からうろこ。

一方、「森盤」はつまらん。ほんまにつまらん! まず選曲がポピュラー系、ポップス系に徹底しているんだけど、それが合ってない。そのうえ、アレンジがあまりにヒネりがなくて、こんなん、カバーする意味あるんかいなって感じ。亀盤最後の「野薔薇」からの流れでtr1「君を愛す」はけっこう良いと思ったけど。

つまらないといえば、亀盤にも森盤にも収録されているジョン・レノンの曲(「Yer Blues」「Starting Over」)が実につまらん。別に椎名がやる意味ないじゃーんて感じ。オリジナル聴けばすむって感じのフツーのカバー。

というわけで、ちょっと玉石混交かな。カバーアルバムってこんなもんだと思うけど。 (9/6/04)