はじめに

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Bonnie Pink

ボニー・ピンク (1973年生、1995年アルバムデビュー)
genre::pop::rock::jp::

写真は、左は1996年、右は2004年。

【概観】

なぜかボニー・ピンクにはまってしまった。

で、ボニー・ピンクの魅力ってなんだろうとちょっと考えます。これがなかなか説明するのが難しい。シンガーとしてもソングライターとしても決して突出した才能だというわけではない。かといって凡庸でもない。なんとなく、大化けしそうでしない、そんなもどかしい感じで見てしまう、でも本人はいたってマイペースだという。この、良い意味で中途半端なところに癒しを感じてしまうのかもしれません。

若そうに見えるけれども、そろそろ30代も半ば。2006年にあっとびっくりなR&B路線の「A Perfect Sky」でブレイクしたけど、年齢的にもこんな若い路線で突っ走るつもりもないでしょう。適度にミーハーだがまったりして浮き足立たない、「ちょっといかしたフツーのシンガーソングライター」ボニー・ピンクにこれからも注目したいと思います。

ちなみにボニー・ピンク・ファンになってから受け口への耐性が強化されました。

【活動】

わりと髪型がその時々の音楽性を反映する(ような気がする)ので、髪型についても付記してあります。

  • 大阪教育大学在学中にライブで歌っているところを音楽事務所に見いだされ、デビューが決定
  • 1995年「Blue Jam」でポニーキャニオンよりデビュー。
  • 1997年セカンドアルバム「Heaven's Kitchen」からトーレ・ヨハンソンとのコラボレーションが始まり、このアルバムが出世作となる。トレードマークの「ショッキングピンクの髪」もここから。
  • サードアルバム「evil and flowers」の発売後、音楽活動に行き詰まりを感じ、単身渡米、約一年間NYで暮らす。
  • 1999年、ミニアルバム「Daisy」よりワーナーに移籍。その後、2000年「Let Go」、2001年「Just A Girl」と、徐々に髪の毛の色が普通になっていき、また、伸びてくる。
  • 2003年「Present」で髪の毛がセミロング、ふつうのダークブラウンに。
  • 2006年に映画「嫌われ松子の一生」で女優デビュー、さらに、資生堂CMソング「A Perfect Sky」で、ついに一般ブレイク、紅白出場を果たす。髪の毛は薄い茶髪に。
  • 今までになくギャルっぽい路線でヒットを飛ばした2006年だったが、2007年には髪を黒髪に戻してあっさりギャルR&B路線を放棄。

Bonnie Pink特集コンテンツ

(9/1/2007)

Blue Jam (Single) ★★★

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Blue Jam

Bonnie Pink / Blue Jam

::★★★::1995::ポニー・キャニオン::pop::rock::jp::
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■ 未完成ながら興味深いデビュー作

ボニー・ピンクはアルバムごとにスタイルを少しずつ変えていくことで知られていますが、それを考慮してもこのデビューアルバムはセカンドアルバム以降とは相当に違う世界で面食らうほどです。とにかく男っぽい。漢っぽい。これを聴いてボニー・ピンクはゲイに違いないと思ってしまったほど(そういう噂は聞きませんが)。中ジャケの写真も非常に中性的だし。

音楽的には全体にブルージー。一曲目のハードロック的なギターからして面食らいますが、もっと驚くのがそのボーカルスタイル。低音を強調した、野太くアグレッシブな歌唱。予備知識なく名前を伏せて聴いたらこれがボニー・ピンクだと分かる人はいないでしょう。もっともこれが地声でないのはセカンドアルバム以降を聴いてもあきらかで、このアルバムでも、tr3、4や初期の代表曲tr8「オレンジ」などでは普通の発声です。つまり意図的にこのような野太い歌唱をしていたわけです。

ふつう、デビューアルバムというのはそのアーティストの「原点」が多かれ少なかれ反映されているものです。その点、このアルバムからは後のボニー・ピンクというアーティストの「原点」が見えにくい。見えにくいだけに謎めいていて余計興味深い。デビュー当時のボニー・ピンクは何を考え、何を表現しようとしたのか。ちなみに、中ジャケには以下のような言葉が大きく印刷されています。

Blue Jam is a mixture of bitter honey, blues music, momentary silence, irresistible madness, teardrops, sourgrapes, hopeful bombs, big big love, and a few green apples.

ほろ苦いキーワードのなかにはっきりと「blues music」という言葉が見えるのが興味深いですね。

最後に、全体的な完成度についてですが、やはり習作という雰囲気は隠せず、歌唱のスタイルが一定していないこと、ソングライティングの技術が未完成だということも含め、隙の多いアルバムだと言えましょう。しかしボニー・ピンクの歴史に興味がある者には大変興味深いアルバムです。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • このアルバムでもっともヘビーな曲はtr1「Scarecrow」とtr2「Curious Baby」ですが、前者はイントロのギターはかっこいいものの、全体としてはグルーヴ不足かなという感じです。ブルージーな後者の方が個人的には好き。
  • 暗く70年代ニューミュージックのようなtr4「背中」、ダークで実験的なtr5「Freak」、シンプルでファンキーなtr6「Too Young To Stop Loving」あたり、のちのボニー・ピンクにはない芸風でおもしろい…けど完成度はまだまだか。
  • このアルバムのベストトラックはやはり最後の2曲。まずtr7「Maze Of Love」はスライド・ギターをフィーチャーした70年代っぽいアーシーなブルーズ・ロック曲で、長いジャムセッション・パートも含め7分を超える意欲作。勢いで押す未完成な歌唱が非常に良いです。そしてデビュー曲tr8「オレンジ」はソウルフルな佳曲。ベースラインが70年代のニューソウルっぽい…と思ったけど、これはボニー・ピンクが好きだ(った)というレニー・クラヴィッツの70年代ソウルへのオマージュ「It Ain't Over Till It's Over」の意匠か。

Surprise! (Single) ★★★★

Surprise!

Bonnie Pink / Surprise! (Single)

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■ デビュー・アルバム路線を突き進めたセカンド・シングル

セカンド・シングル。シングルについては、節目になる曲や、注目曲を含むもののみ取り上げます。

さて、「新曲」となったこのセカンド・シングルですが、ボニー・ピンクがあざやかに「変身」する直前の節目として大変興味深い。ジャケットを見てわかるように、路線としてはデビューアルバムの延長線上。しかもヘビーな路線を引き継ぐもので、歌唱も野太くアグレッシブ。ミディアム・テンポの中、ディストーション・ギターに乗って、「強くなった自分」が方向を見失っている現状に対するいらだちを吐露します。そして、「もっと変わってしまいたい」という変身願望とともに、「Surprise! Daddy / Surprise! Mommy」とひたすら連呼します。色々と解釈の仕方のある曲だと思いますが、オレはここにボニー・ピンクのアーティストとして、見えない殻をつきやぶりたいという破壊衝動を感じます。シングルなのに6分を超える尺も、ボニー・ピンクの反骨精神が如実にあらわれていますね。個人的にはそれほど好きではない曲ですが、次のステップに飛躍する直前の、さなぎをまさに突き破ろうとしている爆発力のようなものが感じられて興味深いです。

しかしこのシングルが興味深いのはタイトル曲「Surprise」に限りません。カップリングのtr2「泡になった」とtr3「We've Gotta Find A Way Back To Love」。この2曲はボニー・ピンクの曲の中でもっともソウルフルな曲です。後者はフリー・ソウルのコンピにも入っているフリーダ・ペインの、原曲に忠実なカバーですからソウルフルなのは当然として、オリジナルの「泡になった」も、70年代マーヴィン・ゲイ的なシルキーなグルーヴをもったソウルフルな曲なんですね。両曲ともとても出来が良く、「泡になった」はボニー・ピンクの「隠れた名曲」と言っても過言ではないでしょう。ただ、ボニー・ピンクはここまでスモーキーでソウルフルな曲は後にも先にもやっておらず、また、とりわけロック的な「Surprise!」のカップリングということと考え合わせても、興味深い方向性です。デビュー作はブルージーでしたが、2作目はソウル色を強めようというアイデアもあったのでは?という妄想も膨らみます。

ファンは要チェックの好シングルです。(9/1/2007)

Do You Crash? (Single) ★★★★

Do You Crash?

Bonnie Pink / Do You Crash? (Single)

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■ 新境地を切り開いたサード・シングル

サード・シングル。

デビュー作でブルージーでヘビーでロッキッシュな路線を聴かせ、新曲となったセカンドシングルではヘビー路線をさらに押し進めると同時にソウルフルな面を見せたボニー・ピンクですが、セカンドアルバムの先行シングルとなるこの3枚目のシングルではそれまでの路線を大きく転換します。新生ボニー・ピンクの誕生の瞬間です。

モノトーン調のイメージだったデビュー作とはうってかわり、髪の毛を真っ赤に染め、赤いシャツと黄色いパンツという鮮やかでカラフルなイメージに。プロデューサーはカーディガンズの大ヒット作「Life」(や最近ではフランツ・フェルディナンド)のプロデュースで有名なスウェーデンのトーレ・ヨハンソン。曲調はアコースティック・ギターとホーンセクションをフィーチャーした、はっきりと、モロにビートルズ的なポップ・チューンに。「Surprise!」で殻をやぶろうともがいていたボニー・ピンクはこの作品で一つの回答をオーディエンスに提示したというわけです。

ただ、確かにこの「Do You Crash?」という曲は、ブルージーでモノトーンなイメージからあざやかにポップな路線にはっきりと転換した曲ではありますが、しかし、デビュー作からの連続性という観点から考えると、この曲はセカンドアルバムの他の曲に比べるとボーカルがタフで、歌詞も「追われることに疲れ果てた今、全てをあきらめてみた/だけどそれは長く続かない、そういう人だから/ずっと海の底にいなさい、霧という静寂と狂気のはざまで/とどめを刺されて仰いだ空」という、自分の中の閉塞感を叩き付けるような内容で、曲調がビートルズ的になったとはいえ、デビュー作や「Surprise!」のビターでブルージーな精神がはっきり生きていることが見て取れます。大きな方向性の転換と前作との連続性が同居している点で、意義深い曲であります。

デビューアルバムに入っててもおかしくないtr2「かなわないこと」(ベストアルバム収録)、タイトル曲以上に新生ボニー・ピンクを感じさせる佳曲tr3「Friends, Aren't We?」(現時点でアルバム未収録)、ララバイのように静かなtr4「One Night With Chocolate」(ベストアルバム収録)など、カップリング曲のクォリティーも高い好シングル。(9/1/2007)

Heaven's Kitchen ★★★★

Heaven’s Kitchen

Bonnie Pink / Heaven's Kitchen

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■ 初期の代表作となるセカンド・アルバム

ジャケットの鮮やかな赤い髪が印象的なボニー・ピンクのセカンドアルバムは、間違いなく初期ボニー・ピンクの代表作と言える作品です。トーレ・ヨハンソンのフル・プロデュースで、前作とうってかわってポップでカラフルになり、また、前作でみせたドスの効いたアグレッシヴなボーカルは影を潜め、より等身大の、無理のない発声で歌うボニー・ピンクを聴くことができます。閉塞感にもがいて殻を破ったその結論が、「自然体」なのだと思います。無理して強がらなくても良いんだと。

とはいえ、この作品のボニー・ピンクは後の作品に比べると、まだ漢っぽさが残っているというか、凛として頑固なまでにまっすぐ前を見据えています。冒頭、アルバムが始まって2秒でボニー・ピンクは「名前があって、そこに愛があって/たとえ一人になっても花は咲いている」という言葉を聴衆に投げつけてくるのですが、その言葉は力強さに満ち、迷いというものがなく、すがすがしいほどです。

また、唱法、曲調や路線が変わっただけでなく、ソングライターとしても飛躍的に進歩しています。というより、ここでボニー・ピンクの一つの「完成形」が見て取れると言って良いほどです。駄曲が一つもありません。曲調はブルージーで泥臭かったデビュー作とはうってかわって洗練され、洋楽的になり、ポップでメロディアスになりました。

…と、ここまで持ち上げておいて言うのもなんですが、オレ個人は実は大好きってほどではないんですねえ、このアルバム。一つにはちょっと洋楽志向が強すぎて、独自性が薄れているような気がするんですよ。カーディガンズ的と言ってしまうと身も蓋もないですが、正直、どうしてもそう感じてしまう。また、一部の曲(tr3「It's gonna rain!」、tr4「Do you crash?」、tr11「Farewell Alcohol River」あたり)がビートルズ色が強すぎるのも気になります。今更かよ、とちょっと思ってしまう。このあたり、トーレ・ヨハンソンの責任かもしれませんが。

ただ、ブリティッシュ・ロック、スウェディッシュ・ポップ大好きな人ならこれらの点も気にならないでしょうし、非常に良く出来た作品でボニー・ピンクの代表作であるのは間違いありません。これを最高傑作だと考えるファンも多いと思います。オレはあまり聴かないけど。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • なんといっても冒頭のタイトル曲「Heaven's Kitchen」ですね。ポップながらも、凛とした力強い言葉の選択と毅然とした歌唱は、のちのより成熟したボニー・ピンクにはない清々しさがあり、ボニー・ピンクのキャリアの中ではずせない代表曲となっています。
  • シングルカットされたtr3「It's gonna rain!」、tr4「Do you crash?」も同じくらい印象に残る佳曲で、このアルバムのクォリティーを決定付けています。上述したようにちょっとビートルズっぽいところが気にはなりますが。
  • オレの隠れたお気に入りはtr5「Silence」。ファンキー! クール! ともすれば甘くなりすぎるアルバムをこの曲がスパイスのようにきりっとひきしめています。ボニー・ピンクの(数少ない)ファンク曲の最高峰。

evil and flowers ★★★

evil and flowers

Bonnie Pink / evil and flowers

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■ セカンド・アルバムをより内省的に突き進めた3枚目

サード・アルバム。このアルバムに「★★★」だなんておまえはボニー・ピンクを分かっとらん!とお叱りを受けそうですが、★★★★に限りなく近い★★★ということでどうかご勘弁を。アルバムの客観的評価というよりも自分のお気に入り度ですので。

出世作となった前作に引き続き、このアルバムもトーレ・ヨハンソンのプロデュースによるスウェーデン録音になっています。前作以上にブリティッシュ・ポップ、スウェディッシュ・ポップの世界に踏み込んだアルバムで、英詞曲の多さと合わせ、このアルバムの洋楽志向は求道的なほどです。また、全体に静かな表情の曲が多いのも特徴です。

ただ、どうも全体にこじんまりとまとまりすぎているような気がします。実はオレのボニー・ピンク初体験がこのアルバムだったんですが、最初聴いたとき、「良いんだけど、どうにもこうにも小粒だな」と思い、しばらくボニー・ピンクから遠ざかったほどです。なんか、曲も歌唱もそつなく水準以上なのだけれども、器用すぎるというか、小さな箱庭にまとまってしまっているような閉塞感があったんですよね。「こうやって小さくまとまったのはトーレ・ヨハンソンが悪いんじゃねーの?」と思ったりもしましたが、ヨハンソンの責任というよりはやはり当時のボニー・ピンクの姿勢がこうさせたんだと今は思います。実際、ボニー・ピンクはこの後(正確には直後に新曲を発表した後)、煮詰まりを感じ、単身NYに渡り、1年間休養し、自分を見つめ直すことになります。

完成度は高いし、英国や北欧のロック・ポップス好きな人ならばむしろこのアルバムは最高の部類に入るかと思います。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • このアルバム、駄曲がない一方で、どの曲も同じぐらいのレベルの楽曲で、比較的地味なので、「これ!」という曲を選ぶのが却ってたいへんです。
  • 冒頭のタイトル曲「Evil And Flowers (Piano Version)」はライブでも良く演奏される曲で、代表曲の一つと言えるかもしれません。オレ的には雰囲気勝負の曲という印象がありますが。
  • オレ的なお勧めはシングルカットされたtr2「Forget Me Not」より、tr5「He」とか、シングルカットされたダークなバラードtr7「金魚」とか、ちょっと変わったところではビートルズ的というかブリット的なtr8「Masquerade」あたりか。
  • でも他の曲もどれも同じぐらい良いです。悪く言えばどれも大差ない。

犬と月 (Single) ★★★★

犬と月

Bonnie Pink / 犬と月 (Single)

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■ 初期と中期の谷間にあるシングル

8枚目のシングル。「evil and flowers」発売の6ヶ月後に発表された新曲で、ポニー・キャニオン最後の録音にして、NY隠居の直前の曲。オリジナルアルバムには入らなかった曲です(ベストアルバムには収録)。

これが悪くないんですよ。イントロのベースラインがルー・リードの「Walk On The Wild Side」のパクリまたはオマージュなのはご愛嬌ですが、全体的にメロディもボーカルもはつらつとしていて、リズムもいつになくアッパーでファンキー。「evil and flowers」の閉塞感はここにはありません。

でもまあ、結局やっぱりボニー・ピンクは自分をリセットするためにアメリカに渡ってしまうのですが。

なおこのシングルには、今のところベストアルバムにも収録されていない「Good-Bye」(エレピ弾き語りの小品)と、「Only For Him」「Heaven's Kitchen」のライブが収録されています。ライブは、ファン向けというか、まあ、もともとライブで力を発揮するタイプのシンガーではないので。(9/1/2007)

Daisy (EP) ★★★★

Bonnie Pink / Daisy (EP)

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■ 肩の力の抜けた美しくフォーキーなミニアルバム

1年の休養を経て、ワーナーに移籍してのミニアルバム。これをシングル扱いにすれば、9枚目のシングルとなります。ただ、序曲的なアコースティック・ギターのインストで始まるし、5曲すべてが新曲、かつ前後のアルバムとも一曲の重複もないので、オレはこれをシングルではなく、アルバムだと思っています。

この作品は全曲ギター主体のアコースティックな作品です。ドラムやベースも入っていますが、静かなアコギの響きが全体を支配しており、ほとんど弾き語りアルバムと言っても良いかもしれません。自分をリセットして戻ってきたボニー・ピンクの自分なりの回答がこれなのでしょう。背伸びをしない、肩肘はらない、自然体で。それを突き進めたのがこのEPであり、ボニー・ピンク二度目の再生の瞬間でもあります。セカンドアルバムとサードアルバムに顕著だったビートルズ的色合いもここではタイトル曲に片鱗がみられるのみで消えたのも注目すべき点かもしれません。

「癒し」という言葉はあまり好きではありませんが、とにかく聴いていてリラックスできる好盤であり、第2のターニング・ポイントとなる作品です。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • このアルバムの曲(tr1「Shortcut」、tr2Daisy」、tr3「Not Ready」、tr4「Toughness」、tr5「Hang Glider」)は、タイトル曲が2006年のベストアルバムに収録されている以外は、アルバム収録されていません。そのタイトル曲tr2Daisy」は、かわいらしい曲で、単独で聴いたときは大した曲じゃないなと思いましたが、このアルバムは全体の流れで聴く作品だと思います。他の曲も、どの曲が突出して優れているとか言うことはありませんが、イントロの小品「Shortcut」から、「Nothing but you could make my day」と力強く歌い上げるtr5「Hang Glider」まで、スムースでアコースティックな音世界が広がります。
  • ちなみにiTS JPではボニー・ピンクのアルバムやシングルはほとんどそろっていますが、現時点ではこのEPは置いていませんね。しかし、iTS USにはおいています。

Let Go ★★★★

Let go

Bonnie Pink / Let Go

::★★★★::2000::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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■ フォーキー路線を少しロック寄りにシフト

4枚目のアルバム。

ちょうど2年ぶりとなるフル・アルバムは、ミッチェル・フルーム(スザンヌ・ヴェガシェリル・クロウロス・ロボスなどのプロデューサーとして有名)のプロデュースによる録音となりました。ブリティッシュ・ポップ色は消え、全体にフォーキーなアルバムとなりましたが、EP「Daisy」ほどのフォーキーさはなく、フォーキーさをベースにロック的要素を入れた作品となっています。「Daisy」では徹底的にフォーキーを目指しましたが、ボニー・ピンクの本質はアコースティック・フォークではないので、少しずつロックを入れて、「新しいボニー・ピンク」を模索しているといった感じでしょうか。

ただ、正直、全体としてはこの試みは完全に成功しているとは言いがたいです。ミディアム〜スローの曲が多く、全体に平坦で地味な印象は避けられません。ミッチェル・フルームは、かなり実験的なこともすることで有名なプロデューサーなんですが、ここでは黒子に徹しています。もう少し思い切った実験があっても良かったんじゃないかなあ。

などと文句を言いましたが、個人的に、このアルバムの後半は相当好きです。地味ながらも、曲が素晴らしい。特に「Rumblefish」は名曲。前半の「Fish」も良い曲なんだけど、この時期のボニピンは魚に思い入れがあったのかな?

もう少しロックに歩み寄るか、それとももっとフォーキーに徹するか、どちらかにした方が良かった気もしますが、嫌いなアルバムではありません。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • オレ的には、このアルバムからシングルカット曲のうちの2曲「過去と現実」、「Sleeping Child」は好きじゃないんですよね〜…なんか暗くて。「Sleeping Child」はアルバム1曲目なんですが、もうちょっとパンチのある曲を一曲目にした方が良かったのでは。
  • このように、好きでない曲も入っている一方、地味ながら好きな曲もかなり入っています。まず、リラックスしたウォーキング・ビートのtr3「Trust」。ボーカルも清々しく、ザ・サンデイズのハリエット・ウィーラーをちょっと彷彿とさせる瞬間もあります。続くアコースティックなtr4「Reason」も良いです。「Daisy」に入っていてもおかしくない感じ。
  • デビューアルバム以来の、ミディアムテンポのハードロック・ブルーズとなるtr7「Call My Name」も力強いボーカルが良いです。
  • しかし個人的なベストはtr11「Rumblefish」。tr2「Fish」、tr4「Reason」と並んで、EP「Daisy」路線と言えるアコースティックでフォーキーな曲。「Just like two rumblefish, they die in an aquarium」という一節が心に残る、美しくも力強い曲です。
  • このアルバムでもっとも軽快でポップなtr12「You Are Blue, So Am I」(シングルカット)も良いです。

Just A Girl ★★★★

Just A Girl

Bonnie Pink / Just A Girl

::★★★★::2001::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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■ さらに前進を試みるも、少々迷いも?

5枚目のアルバム。

日本録音ながら、アルバム全体のトーンは基本的に前作の延長線上です。冒頭の曲「Sweet」でドラムンベースのリズムを取り入れたり、全体にフォーキーさが後退し、ロックっぽさが前面に出ているなど、「Daisy」以来の「リハビリ」がさらに前進しているという印象。

とはいえ、やはり前作にあった不満、つまり全体のトーンが暗めで平坦だという欠点はこのアルバムにも見られる気がします。また、冒頭の3曲がもう一つぱっとしない点、tr7「再生」のアレンジがアルバムの中で少々浮いている、シングルにもなったtr12「眠れない夜」が暗くてオレ的に好みじゃないなど、文句もいろいろあります。全体の統一感も今一つで迷いがあったのかもしれません。

が! 前作と同じく、中盤から終盤にかけてぐんぐん良くなるアルバムなんですね。そして、ラストのタイトル曲「Just A Girl」。曲名とは裏腹に非常に力強い、漢らしいアコースティックバラードで、ラストを飾るにふさわしい歌唱を聴かせてくれます。この曲はある意味「Blue Jam」のころの姿勢に戻ったとさえ言える、ピュアな意味での「ブルーズ」です。この「Just A Girl」は計らずもこういった漢っぽい路線の最後の曲になります。その意味でも感慨深いです。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • シングルとなったtr4「Thinking Of You」は久々にソウル/R&B路線となりました。昔の声の太さはどこへやら、線の細い歌唱ですが、そこがもどかしくて逆にたまらないです。そらからこの曲のプロモビデオのボニー・ピンクはすげーかわいいです。ちょっとイモっぽくて。
  • サンデイズを彷彿とさせるアコースティックなtr6「コイン」も素晴らしい(ちなみにサンデイズはこういうバンドです→リンク)。特にサビでファルセットを効果的に用いるところが素晴らしいです。「Thinking Of You」でもファルセットの使い方が効果的だと思いますが、このアルバムはそのあたりの唱法の新境地がさりげなく聴ける作品ですね。
  • tr8「Take Me In」(シングルカット)以降、本文でも触れたラストの「Just A Girl」まで捨て曲なしでいずれも素晴らしいです。

Present ★★★★★

Present (CCCD)
Present

Bonnie Pink / Present

::★★★★★::2003::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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ボニー・ピンクの魅力が開花した傑作アルバム

6枚目のアルバム。

オレの考えるところではこのアルバムで、ボニー・ピンクは真の意味で開花したと思います。プロデュースは1曲目のみトーレ・ヨハンソンとの再タッグ、残りはD*Noteのキーボードで、アシッド・ジャズ/クラブ畑のマット・クーパーですが、アシッド・ジャズ風味もスウェディッシュ風味もほとんど感じられないアルバムです。このアルバムは、乱暴に言えば、ボニー・ピンクがついにJ-Popになったというアルバムなのです。それまで、髪をショートにして、時には真っ赤に染め、「女性性」を拒否し、邦楽を避け、洋楽志向だったボニー・ピンクが、その自らの縛りをついにやぶった作品です。「Just A Girl」のころにすでに髪は黒っぽく戻り、髪も伸び始めていましたが、このアルバムでついに髪の色が黒に戻り、髪もセミロングになりました。そして、ジャケットの写真も、これまでの中性的(あるいは男性的)イメージから、よりフェミニンなものに変わっています。

この変化は音楽にも如実に現れています。それは、音楽がフェミニンになったという意味ではなく、女性性を無理して拒否することがなくなったということです。洋楽志向も薄れ、あざといまでにキャッチーな曲を演奏することも恐れません。サウンドも、今までの渋みのある音から、粒の立った打ち込みのビート、華美なキーボードにボニー・ピンクの「Daisy」以降のトレードマークであるアコースティック・ギターがからむという独特のものになっています。

しかし、何よりも変わったのはボーカルでしょう。デビュー作「Blue Jam」では意図的にアグレッシブに歌い、「Daisy」、「Let Go」、「Just A Girl」では意図的に「自然体」を追求したボニー・ピンクでしたが、ここで初めて彼女は「エンタテイメント」としての歌に真摯に向き合っています。自然体をもとめるあまり内省的になり過ぎることもなく、より聴き手に自分の言葉、メロディーが届くような歌唱になっています。押すときは押し、引くときは引くという緩急をつけた歌唱です。

「evil and flowers」を最初に聴いて、「小粒だな」とあなどっていましたが、次にこのアルバムを聴いてショックを受けました。非常に力強く、かつ非常にポップで分かりやすい傑作です。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • 冒頭の「Tonight, the Night」(シングルカット)は3度目の再生を遂げた新しいボニー・ピンクを高らかに宣言するのにふさわしい曲です。それまでのどのアルバムにもなかった、派手でポップでJ-Pop的なサウンドに驚いた旧来のファンも多かったのではないでしょうか。しかし、これを商業主義へのおもねりと考えるのは早計です。確かにサビは派手でキャッチーですが、全体にメロディー、構成ともに良く練られており、また、サビ前の「格好なんてつけなくていいよ」という部分でのファルセットの絶妙な混ぜ方とリズムにはオレは鳥肌が立ちますね。
  • しかし、オレ的に「Tonight, the Night」を超える名曲がtr3のタイトル曲「Present」。「Tonight, the Night」とうってかわってブルーな恋愛の歌詞ですが、そのせつなさが歯切れの良い打ち込みとギターの織りなすビートに導かれて表現されています。ボニー・ピンクのボーカルは歌いだしからサビまですばらしい。ファルセットの使い方も効果的だし、緩急があるし、それからこのアルバムから顕著ですが、16ビートの符割りが自然にできるようになり、リズムが非常に良くなった。このアルバム以降のボニー・ピンクに批判的なファンも少なからずいますが、しかし断言できるのは、この曲で聴けるような歌唱の表現力は初期のアルバムには絶対なかったということです。ということで、オレ的にはボニー・ピンクの全楽曲の中でもトップ5に入るほど好きな曲です。
  • tr8「Can't Get Enough」、tr10「Chronic Vertigo」の2曲も非常に好き。前者はファンキーなロックチューンで、サビの「Can't get enough, can't get enough, enough of you」での線の細いボーカルが逆に良いですね。後者もファンキーだけれども、それよりとにかく歌詞がユーモアがあっておもしろい。例えば「外食は週に一度/外泊も週に一度だけ/入浴は毎日してるけど/さっぱりしないのはなぜかしら」とか、「体重は甘えた数/身長は背伸びした数/足し算と割り算は上手/でも捨てられないのが恋と言うもの」とか、このようなちょっとおもしろい言葉遊びは今まではあまりありませんでした。ボーカルの16ビートのリズムも非常に良いし、「超高層ビルの屋上で」の「の」だけでファルセットになるところもカッコいいです。
  • 他の曲も、打ち込みビートを除けばけっこうアコギ主体の曲で、実は「Let Go」「Just A Girl」との連続性もけっこうあるアルバムだなと聴き直して思いました。それだけMatt Cooperのプロデュースが良かったということか。

Even So ★★★★★

Even So

Bonnie Pink / Even So

::★★★★★::2004::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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■ 前作をしのぐ勢いの傑作

7枚目のアルバム。久々のトーレ・ヨハンソンのフル・プロデュース。

このアルバムは前作とともに、ボニー・ピンクの最高傑作だと言えるでしょう。基本的には前作の延長線上なんですが、どちらが上かと言うと…オレは僅差でこのアルバムの方が上じゃないかと思います。

前作で「内向性・洋楽志向」の呪縛を打ち破り、より自由なJ-Pop的アプローチを打ち出したボニー・ピンクですが、本作もJ-Pop的です。つまり、より商業的に成功しやすい音ですが、商業的だからと言ってクォリティーが低いとは限りません。前作同様、曲・メロディー・歌唱、どれを取ってもボニー・ピンクのキャリアで最高の水準だと言えるでしょう。

また、4枚目「Let Go」、5枚目「Just A Girl」ではアルバム1曲目〜前半に印象深い曲が少ないことにオレは不満を持っていましたが、前作(「Tonight, the Night」)、今作(「Private Laughter」)と非常にパンチの聴いた素晴らしい楽曲で幕を開けるのもアルバムの印象を良くしています。

素晴らしいアルバムです。ついでにジャケ写も超カワいい。ちょっと本人の実際の雰囲気と違う気もするけど。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • 冒頭の「Private Laughter」(シングルカット)は良いですね。何が良いかと言うと、冒頭の「頑なにつぶった目をあっさりとほどいた魅惑の言葉」というところから、低めの音域で、ドスの効いた歌唱が展開されるという、ファースト・インプレッションが鮮烈なのが良いですね。ドスが効いたといっても、最初期のような無理な発声ではなく、自然な発声で、かつ、力強いんですね。歌というのは高音をはりあげるのは誰でもできるのであって、低音をしっかり歌えることの方が重要なわけです。
  • もう一曲のシングルtr9「Last Kiss」は、非常にキャッチーなパワーバラード(サビの盛り上がりでハードなギターやストリングスで盛り上げるバラード)で、ついにボニピンもパワーバラードにまで手を染めたかとハードコアな初期のファンなら眉をひそめそうなところですが、この曲が非常に良くできているのですよ。構成はこれでもかというほどシンプルで、メロディも覚えやすく、サビの盛り上がりも嫌みなく、「痩せた指にキスをしたあなたをずっと忘れないよ」というくだりにはほろりとしてしまいます。このサビでは、「忘れないよぉぉぉぉぉ〜〜〜」というようなJ-Popでありがちな暑苦しい歌い上げをせず、音を必要以上に伸ばさずに切り、余韻を残す歌唱なのがまた良いです。
  • その他では、清々しくフォーキーなtr2「Ocean」、ポップでひたすらキャッチーなtr3「New Dawn」とtr4「5 More Minutes」あたりが良いです。そう、もう「前半はもひとつだけど後半にかけて意外に良いんだよねえ」とは言わせない。前半にきっちりと良曲が固めてあるのが前作と今作の強みです。

Golden Tears ★★★★

Golden Tears

Bonnie Pink / Golden Tears

::★★★★::2005::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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■ 引き続き快調 もう少しメリハリが欲しいところか

8枚目のアルバム。

引き続き好調です。プロデュースはトーレ・ヨハンソンの弟子的存在?のバーニング・チキンが加わってヨハンソンは少し後退。基本的には前作の延長線上にあるけれども、今回はシングルカットされた冒頭の「So Wonderful」を始め、厚いシンセと打ち込みビートを強調したエレクトロ・ポップ風味が強くなっています。ということで、ポップ度ではボニー・ピンクで一番かもしれません。どの曲もキャッチーで親しみやすいです。曲の粒も揃っています。

ただ、エレ・ポップ風のアレンジのせいか、ちょっと飽きやすいアルバムかなあという気もします。まあ贅沢な文句ですけど。「Present」や「Even So」ほどは繰り返して聴かないなと。

でもそれも相対的な問題で、非常に良く出来たアルバムであることには変わりありません。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • やはり何と言っても冒頭のtr1「So Wonderful」。非常にシンプルかつ爽快、ポジティブ、ポップな曲で、晴れた日のドライブのお供には最高の曲です。ボニー・ピンクの歴代のシングルでもかなり上位に入る名曲。プロモビデオも良いです。
  • 他では個人的に好きなのは、エレクトロなシンセが気持ちいいtr9「Rise And Shine」、同じくエレ・ポップ路線のtr13「Believe」。いずれも非常に良い曲です。
  • 従来路線の曲では、tr6「日々草」が良いですね。

Love Is Bubble (Single) ★★★★

LOVE IS BUBBLE

Bonnie Pink / Love Is Bubble

::★★★★::2006::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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■ スウィングジャズを取り入れた異色シングル

2006年はボニー・ピンクにとってちょっと「変わった」年になりました。アルバムは出ませんでしたが、「サイドプロジェクト」のような活動が二つあったのです。そのうちの一つが、「下妻物語」の中島哲也監督のコメディーミュージカル映画嫌われ松子の一生」への出演です。しかも売春婦役。さらに劇中歌も提供。それがこの「Love Is Bubble」です。愛よりも金という売春婦哲学を描いた歌詞も異色なら、まるで椎名林檎がやりそうな昔のスウィングジャズ調も今までのボニー・ピンクにはないもので、ちょっと驚きです。ただ、コード進行にボニー・ピンクらしいちょっとしたひねりもあって、悪くないと思いますね。けっこう良いです。なお、このシングルには「オレンジ」「Do You Crash?」という初期の曲の2005年のライブが収められています。(9/1/2007)

A Perfect Sky (Single) ★★★★

A Perfect Sky(初回限定盤)

Bonnie Pink / A Perfect Sky

::★★★★::2006::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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■ ファンの間に物議をかもしだしたシングル

もう一つの2006年の「ちょっと変わった出来事」が、化粧品のCMソングとして吹き込まれた「A Perfect Sky」の大ヒットです。これはオリコン2位まで昇るボニー・ピンク最大のヒットとなり、「デビュー11年目のブレイク!」などと(少々失礼なことを)言われ、さらに紅白にまで出てしまったのですからこりゃまたびっくりです。

しかし驚きなのはその曲調で、モロ現代風のR&Bになっていて、古くからのファンを驚愕させました。かくいうオレも最初聴いたとき、「うぉっ、ここまで魂売るか?!」と思いました。

ただ、曲はとても良いです。サビ前のメロディ展開はボニー・ピンクらしいセンスの良さだし、サビも印象に残りやすく、ヒットしたのも分かります。また、R&B路線が意表を突くと言っても、ソウル路線なら古くは「オレンジ」(1995)、「泡になった」(1996)、「We've Gotta Find A Way Back To Love」(1996)などでも見せていたし、「Thinking Of You」(2001)は、アコースティックベースながらも現代R&Bの影響をはっきり受けた曲でした。だからそんなに驚くべきことでもないかもしれないなと思いました。

ちなみにカップリング曲「Free」も夏らしい、パーカッシブでアコースティックな佳曲です。(9/1/2007)

Thinking Out Loud ★★★

Thinking Out Loud(初回限定盤)(DVD付)
Thinking Out Loud

Bonnie Pink / Thinking Out Loud

::★★★::2007::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
iTS US / iTS JP(→iTSについて

■ デビュー作以来の凡作か

さて、映画出演、「A Perfect Sky」の大ヒット、紅白出演と「激動の年」だった2006年を経て出された9枚目のアルバムですが、「魂を売ったのか?」「いったいこれからどこへ行くんだ?」と思わせた「A Perfect Sky」のあとだけに、ファンにとっては非常に注目されたアルバムとなりました。

で、蓋をあけてみると、先行シングル「Anything For You」や、髪を黒に戻したことから予想された通り、ロック回帰、生演奏回帰なアルバムとなりました。しかも2枚目「Heaven's Kitchen」〜3枚目「evil and flowers」はブリティッシュ・ポップ、EP「Daisy」〜5枚目「Just A Girl」はフォーキー、6枚目「Present」〜8枚目「Golden Tears」はJ-Pop的でしたから、「ロック回帰」というと、ずっと飛んでデビュー作「Blue Jam」まで遡ることになります。確かに、ハードロックのtr5「Imagination」など、「Blue Jam」に入っていてもおかしくない感じ。

とはいえ、未完成なところまでデビュー作に回帰しなくても良かったのでは…と思います。

全体に曲も練れていないし、焦点もしぼれていない。ロックぽいと書きましたが、全体にはやはりポップなんだけど、今いちコンセプトが見えにくい。tr2「Broken hearts, citylights and me just thinking out loud」やtr8「坂道」、tr10「Catch the Sun」は、どこか80年代MTVポップスのような微妙にダサレトロな雰囲気が漂っているのですが、それが意図されたものなのかも良くわからない。ダサレトロな雰囲気でやるならもっと徹底してやってくれないと…。

また、ロック志向、生演奏志向といってもバーニング・チキンによる演奏とサウンドもどうにもダイナミックさに欠け、非常にビビッドだった「Golden Tears」のプロダクションチームとは信じられないほど。さらに悪いことにはボニー・ピンクのボーカルも平坦で精彩に欠けます。

さらに納得できないのが曲順。まず1曲目は「Gimme A Beat」ですが、弱い、弱いよこの曲じゃ。てゆうかこの曲なんでこんなにテンポ遅いんだ? 1曲目はこの曲じゃなくて、どう考えてもキャッチーな「Anything For You」(シングル)にすべきだった。てゆうか、この「Anything For You」がアルバムラストだなんておかしい、おかしすぎるよ! なんでアルバムラストがアルバムで一番キャッチーで明るい曲なんだよ! アルバムラストはやはり「A Perfect Sky (Philharmonic Flava)」でしょ? この曲は系統としてはちょっと浮いているし、オーケストラのストリングス入りなんだから、ラストにはちょうど良いでしょう。よし分かった、オレが「正しい曲順」を決めてやろう。こうだ!

  1. Anything For You
  2. Burning Inside
  3. 慰みブルー
  4. Broken hearts, citylights and me just thinking out loud
  5. Gimme A Beat
  6. Imagination
  7. Lullaby
  8. 坂道
  9. Water Me
  10. Catch the Sun
  11. Chances Are
  12. A Perfect Sky (Philharmonic Flava)

でもこう変えてみてもやはり楽曲が弱いなあという印象がぬぐえません。唯一の例外がドラマのエンディングテーマで使われた「Water Me」。この曲は文句なしの名曲です。でもこの曲にしたってアルバムのトーンからちょっと浮いているし…。

なんでもボニー・ピンクは病み上がりだったそうです。言われてみれば病み上がりっぽいというか、もう一つ精彩がないです。必ずしも自身の典型的な芸風とはいえない曲でヒットを飛ばしたあとだったし色々難しい問題もあったのかもしれませんが、次作に期待といったところです。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • このアルバムで最も良い曲は本文でも書きましたが、「Water Me」です。これはある意味「Last Kiss」以上にJ-Popっぽいバラードで、またボニー・ピンクが一線を超えたという感じがしますが、曲の素晴らしさは疑うべくもありません。ただ、これも本文にも書きましたが、アルバム制作とは別のタイミングで録音された曲なんで、アルバムのトーンにはあまり合ってないんだよなあ。
  • 先行シングル「Anything For You」は、最初聴いたとき「こんなありがちな曲でいいの?」と思った曲ですが、繰り返し聴くとなんだかクセになる曲です。
  • 「A Perfect Sky」はどうなるのかと思いましたが、「Philharmonic Flava」ということで、ストリングスが入ったバージョンとして収録されました。原曲を変にいじってないし、これはこれで良いのでは。と思いました。