Blue Lines ★★★★

Blue Lines

Massive Attack / Blue Lines

::★★★★::1991::Virgin::club::trip hop::dub::
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このアルバム、もう10年以上まえなんですね。トリップ・ホップのオリジネーターでありもっとも偉大なグループであるマッシヴ・アタックももう10年選手。で、このあいだに彼らがリリースしたふつうの意味でのアルバムって何枚だと思います? 3枚ですよ、たった3枚! 寡作もはなはだしい。しかしマッシヴ・アタックの存在感ってアルバム3枚なんてものじゃ済まないんですよね。そのあたりが彼らの凄味であります。

さて、そんな彼らのデビュー作である本作。マッシヴ・アタックの最重要作となる一作。ですが、地味です。ひたすら。てゆうか、マッシヴ・アタックって、決して新奇なことや斬新なことはやってこなかったんですよね。基本的には、ダウナーなソウル・ミュージック、ダブ、レア・グルーブといったイギリスのクラブ音楽の伝統の延長線上にある。もっといえば、あきらかにソウルIIソウルの直系。しかし、91年には失速していたソウルIIソウルにはなかった何かがここにあるのです。が、それが何かと問われると答えに窮する自分がいます。うーん、なんだろ。非常に内向的なんだけど、同時に、決して耽美というところまではいかず、音楽というものへの真摯な姿勢が見てとれる。そのあたりのバランスが実に絶妙で、表面からきこえてくる音以上の深みがもたらされているのであります。

と、講釈たれたりしましたが、実はそんなに大好きなアルバムでもないという。 (11/10/02)

Protection ★★★

Protection

Massive Attack / Protection

::★★★::1994::Virgin::club::trip hop::
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マッシヴ・アタックの2作目。このアルバムの目玉はなんといっても冒頭のタイトル・トラック。エヴリシング・バット・ザ・ガールのトレイシー・ソーンをボーカルに迎えたこの耽美的な曲は、非常に多くの影響を与えました(たとえばOliveといったグループのコンセプトはまさにここに凝縮されているといえます)。ダークかつ淡々とした、ダブ的なバックトラックに、透明感と寂寥感あふれる女声ボーカルが浮遊するさまは独特の美しさをたたえています。この奇跡的なとりあわせは、トレーシー・ソーン本人にさえ非常に大きな影響を与え、アコースティック・ポップ・グループだったエヴリシング・バット・ザ・ガールは、その後トリップ・ホップやエレクトロニカに傾倒し、第二の成功を収めます(もちろんこの変身にはそれ以前にも布石があったわけですが)。何度聴いても新鮮な珠玉の名曲。続く「Karmacoma」も名曲。マッシヴ・アタックらしいダブの影響に、インド的パーカッションを折り重ねた曲です。しかし、このアルバムはこれ以降があまりぱっとしない。一曲一曲は悪くはないんだけど、通して聴くとどこか(悪い意味で)鈍重で、煮詰まりを感じさせさえする。ラストのアンディ・ホレースによる「ライト・マイ・ファイア」のライブバージョンはおもしろいと思うんだけど、こういう遊び心がもっと欲しかったところです。 (7/22/03)

No Protection ★★★★

No Protection

Massive Attack v. Mad Professor / No Protection

::★★★★::1995::Wild Bunch::club::trip hop::dub::
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マッシブ・アタックの2作目アルバム「Protection」をイギリスのダブ界の重鎮マッド・プロフェッサー先生が全面リミックスしたアルバム。これが元のアルバムより(・∀・)イイ! 名曲であるタイトル曲など、良い曲もあったものの、全体的にはちょっと袋小路感があっていまいちだった原作の「Protection」に対し、こちらはマッド先生が好き放題暴れている感じ。もともとマッド先生のダブというのは過激ではあるけれども緻密さよりわりに緩い雰囲気が特徴なだけに、原作の閉塞感にうまく風穴が開いたんですね。冒頭の「Protection」のダブ・リミックスである「Radiation Ruling the Nation」のイントロからしてブッ飛んでいて、当時聴いたとき大笑いしてしまいましたが、今聴いても笑える。そしてカッコいい。このインパクトがアルバム全体の印象を決定づけてますね。他の曲は、ボーカルは抜いてあるもののわりに原曲に忠実なんですけど、でもその分原曲の良さがより深まった気がしますね。なんというか、ちょっと考え過ぎてしまったマッシブ・アタックに対して、マッド先生が「まあ、ちょっとワシに貸してみいな、そんなにな、頭つかったらアカンて」という感じに気持ち良く解体しているというか。解体しているけれども、原曲からは大きくははずれてない、と。(だから、マッド先生の作品として聴くと、かぎりなくレゲエ色が薄い。)ということで非常に理想的なコラボレーションじゃないでしょうかね。ジャケのバカさ加減もすごい。 (6/9/03)

Mezzanine ★★★★★

Mezzanine

Massive Attack / Mezzanine

::★★★★★::1998::Virgin::club::trip hop::
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傑作。ぼくはマッシブ・アタックはファースト・アルバムからリアル・タイムで追って来たけど、個人的にはこのアルバムがダントツで好き。てゆうか、冒頭の「Angel」でガツーンと来ましたよ。不気味な、地を這うようなベース。静かなリズム。そのモノクロの地平の彼方から静かに立ちあがるホレース・アンディのボーカル。「君はぼくの天使だ‥」そういう甘い歌詞とは正反対に、サウンドはひたすら陰鬱。そして2分ほどたったところで突然激しく、そう雷雨のように降りそそぐギターサウンド。マッシヴ・アタックは、アルバムではここまでロック的な曲はなかっただけに、このロックっぽさに驚くとともに、動と静を見事に対比させた表現、そして、常連とはいえ、レゲエのボーカリストであるホレース・アンディをこういう文脈で使うことの斬新さに、ただ感嘆。で、このアルバムはこの気合いの入ったテンションのまま進みます。第二の聴きどころは、コクトー・ツインズのリズ・フレイザーの参加でしょう。前作のトレイシー・ソーン(エブリシング・バット・ザ・ガール)と同等の奇跡的なハマリぐあい。「Teardrop」「Black Milk」でのフレイザーの美しさは極立っております。そして、個人的な極めつけは「Group Four」。ヘヴィーながらも静かで単調な前半から、フレイザーのボーカルの存在感がほとんど宗教じみている後半へ突入。この怒涛の展開には圧倒されます。とにかくとんでもないアルバムです。 (5/21/03)

Singles 90/98 ★★★★

Singles Collection

Massive Attack / Singles 90/98

::★★★★::1998::Virgin::club::trip hop::
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マッシヴ・アタックの全シングル&リミックス(1990-1998)を収録したボックスセット。外箱が温度によって色が変わるナゾの材質でそのあたりの謎っぽさがマッシヴ・アタックっぽい(ほんとかい)。で、収録曲は、「Daydreaming」、 「Unfinished Sympathy」、 「Safe From Harm」、 「Hymn Of The Big Wheel」、 「Sly」、 「Protection」、 「Karmacoma」、 「Risingson」、 「Teardrop」、 「Angel」、 「Inertia Creeps」とそのバージョン違い+少数のその他の曲(アルバム未収録曲を含む)、あわせて63曲。で、全体としては、玉石混交‥というより、石のほうが多いかも。もともと完成された優れた楽曲ばかりなだけに、リミックスが原曲を超えるのもちょっと難しい相談ですね。その中で珠玉!という数少ないものをとりあげますと、まず、ブライアン・イーノによる「Protection」。原曲とほとんど変わらないんですけど、原曲の良さを殺さず、9分の長尺にしたてあげることができたのはイーノならでは、かも。とにかくこの名曲をより長く聴けるようにしてくれてありがとう、ということで。それからポーティスヘッドの「Karmacoma」。これは本作品ベストリミックスですね。原曲とまったく違う、よりトリップホップ的バックトラックながら、なぜか原曲の良さも残っているような気がするから不思議。ジミヘン風ギターのからみも斬新ですばらしいし、ポーティスヘッドってそんなに好きじゃなかったんだけど、これ聴いて、あんたらスゴいわ、と正直思いますた。「Karmacoma」はU.N.K.L.Eのバージョンもなかなか。もうひとつ、「Inertia Creeps」のAlpha Mixは、どこか安らぎを感じさせるアレンジになっており、原曲の良さを保ちつつ、原曲とは違った味わいを見せてくれます。もうひとつ、これはリミックスでなくアルバム未収録曲ですが、キャロライン・ラヴェルというアイリッシュ・トラッド系シンガー(チェロ奏者でもあるらしい)をフィーチャーした「Home Of The Whale」。ほとんどビートとボーカルだけの、静かでダークな曲ですが、聴いていて漆黒のイメエジの中から寒い海の光景が広がっていく、非常に素晴しい曲。他は、まあまあな曲、リミックスから、つまらないものまで、いろいろ。御丁寧にアルバムバージョンもどっさり入っています。ということで、マニア向けのボックスセットであるのは間違いないです。 (10/7/03)

100th Window ★★★★

100th Window

Massive Attack / 100th Window

::★★★★::2003::Virgin::club::trip hop::
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1990年代の最も重要なグループのひとつであり、寡作で知られるマッシヴ・アタックの5年ぶり新作。聴いた感想を一言でいえば、ついに彼らも凡作を作ってしまったかなぁという感じです。マッシュルーム、ダディーG、3Dのトリオで活動を続けてきた彼らですが、どうやら方向性の違いにより、マッシュルームが脱退したそうで、しかも家族と時間をとるためにダディーGが休養中、ということで実質3D一人で作った作品だそうです。そのせいかどうかはよくわからないのですが(三人の役割みたいなことはあまり考えたことがないし)、でもやっぱりこのアルバムは決定的に薄味です。ほとんどまったく新しい要素がない。ヒドい内容というほどでもないけど、薄い内容です。2作目「プロテクション」(1994)でトレーシー・ソーン(エブリシング・バット・ザ・ガール)、前作である3作目「メザニン」(1998)でリズ・フレイザーコクトー・ツインズ)をゲスト・ボーカリストとして迎え入れ、奇跡的なコラボレーションを生んでいたマッシブ・アタックが今回迎え入れたディーヴァはシネイド・オコナー。これも悪くないんですが、わりに当たり前かなぁという組み合わせで、で、実際聴いてみて大体予想どおりというか。てゆうか、オコナーがイギリスへの反戦へのメッセージを送った「A Prayer For England」とか、むしろ不自然な感じです。一方、2曲目の「What Your Soul Sings」は、リズ・フレイザーとトレイシー・ソーンの中間ぐらいの神秘性を帯びていて、かなり良い。あとはわりに平均的。他、ホレース・アンディの曲、3Dの歌う曲と、まあ、いつもどおりです。てゆうか、マッシヴ・アタックに「ま、いつもどおりです」なんて感想は投げたくなかったよ‥。

でもまあ、あまり多くを期待せず、箸休めと考えればそれなりに楽しめます。というのも、このアルバム、ダウナーなのはいつもと同じなんですが、全体に軽いんですよね。前作が超ヘヴィーだったのと好対照。薄味でビートも軽くて、これはこれでヒーリングっぽくて良いかも。それをある意味象徴するのがラストの「Antistar」という曲。20分近くある曲なんですが、最後の10分間はひたすら静かな電子音のシークエンスが延々鳴るだけ。このエンディングは妙にこのアルバムのテンションと合っているんだよね。同居人ちゃんは「こんなのまともな音楽じゃない」とコメントしてましたが、このエンディングは非常に効果的で、なんか映画「マイノリティー・リポート」の予知能力者たちが漬かっている培養液のようなところにたゆたうような気分になります。というわけで、マッシヴ・アタック初の「BGMになるアルバム」かもしれません。全体的なビートの妙な軽さも心地良いといえば心地良い。不満といえば不満。 (3/2/03)