フランク・ザッパ:オリジナル・マザーズ期について(→<a href="/ghostlawns/searchdiary?word=%2a%5bZappa%2c%20Frank%20%2f%20intro%5d" >Zappa Top</a>)

Frank Zappa: (1) The Original Mothers Era

オリジナル・マザーズ期
(1966-1970 by the album release years)

【オリジナル・マザーズの「らしさ」】


ザッパのプロとしての本格的な活動は、THE MOTHERS OF INVENTION(発明の母)というグループのレコードデビューという形をもってはじまりました。マザーズ・オヴ・インヴェンションは、グループ形態ながらも実質的にはザッパのプロジェクトであったのですが、70年代以降のマザーズ/ザッパ・バンドにくらべると、ぐっとグループの体を成していました。それは、60年代のザッパには、マザーズ名義とは別の「ソロ・アルバム」が存在するという事実にも逆説的にあらわれていると思います。では、オリジナル・マザーズはどういう意味で後のマザーズより、より「グループ的色彩が濃い」のか?別の言葉で言えば、なぜオリジナル・マザーズは、他の時代のマザーズ/ザッパ・バンドに比べ、かくも「マザーズっぽい」のか?

ぶっちゃけて言ってしまえば、ザッパのキャリアの最初期だったから、ということが大きいんじゃないでしょうかね。どういうことかと言うと、ザッパの名声 (?)がとどろいたあとの70年代以降は、スゴ腕ミュージシャンが自然とあつまってくる感じであったし、特に70年代半ば以降は、厳しいオーディションによってバンドメンバーを選別するのが普通になりました。しかし、オリジナル・マザーズはといえば、それにくらべると、いっちゃわるいけど、実にシロートくさい。もちろん、すご腕マルチプレイヤー、イアン・アンダーウッドはじめとするホーン隊はかなりの腕だったと思いますが、デビュー当初はホーンもいなかったし、みるからに「そのへんにいるヘンな仲間が集まりました」って感じなんですね。いや、これは決してケナしているのではなく、オリジナル・マザーズの最初のメンバー、レイ・コリンズ(vo)、ジミー・カール・ブラック(dr)、ロイ・エストラーダ(b)は、それぞれに非常に個性的なプレイヤーでした。ただ、あまり「理論派」「技巧派」という感じではなく、どちらかというとだらーっとレイドバックした雰囲気が味のあるプレイヤーだったわけです。で、そういうのが基盤だったからこそ、「オーディションで選んだ」のとは違う独特の雰囲気や一体感がぷんぷん、クサいほどに臭ってくるのです。その「臭い」こそがまさに「オリジナル・マザーズのマザーズたる所以」といえるのではないでしょうか。

【オリジナル・マザーズの出す音】


ところで、オリジナル・マザーズ時代についての晩年のザッパ自身のコメントは時として手厳しい物だったりします。その理由は、第一に、オリジナル・マザーズは、ザッパの理想の音楽を体現する超人的な演奏技術もなかったし、第二に、当時の録音技術も満足には程遠かったから。ザッパは非常に合理的な考えをする人ですから、オリジナル・マザーズ時代より演奏技術も録音技術もはるかに高度な後の時代の作品のほうがすばらしいのは言うまでもないと考えていたでしょう。しかし、(ぼくも含めた)かくも多くのファンがオリジナル・マザーズが最高と考えています。ザッパはこのことに対して少しくイラだってた気がすると考えるのは想像力が旺盛すぎるでしょうか?でも、オリジナル・マザーズの発掘ライヴ「Ahead Of Their Time」のライナーにしたって「まあまあのライヴ」なんてツレないこと言ってるし、内心「これ聴くんだったら80年代のライヴの方にしろよ」と思っていたんじゃないかな(実際、1988年のツアーのライブアルバムに「The Best Band You Never Heard In Your Life」ってタイトルつけていたぐらいだから)。

しかし、それでもなぜ、ぼくを含むファンの多くは60年代にかくも惹かれるのか?それは、第一に前述した「臭い」のせい。かな?とにかく個性的でヘンテコなメンツ。第二に演奏。特に、ドタバタとしたリズム隊は、メチャうまい70年代以降のシャープなリズム隊にはないノンキで楽しい雰囲気がいっぱい。第三に、さまざまな音の仕掛。演奏技術の不足を補うためか、オリジナル・マザーズ時代のアルバムは、これでもかと、いろんなスタジオ・エフェクト、カット・アップ、コラージュ、逆回転、おかしなノイズなどがあふれていて、それがすごく楽しい。技術が完成された80年代に「オーバーダブなしのライヴ録音」をモットーにしていたのとまさに対照的です。そして第四に、なんといってもザッパのキャリアのはじめ。ザッパの才気!がほとばしってます。はっきり言って、この時代の作品はハズレがありません。その意味でも最高に充実していた時代であったと思います。マザーズ万歳!!

【(全員は紹介しきれないので‥)おもなメンバー紹介】


デビュー当時は5人組だったマザーズ。Vo, Gx2, B, Ds というフツウのロックバンド的形態でしたが、サイド・ギターはすぐに抜け、その後ツイン・ドラムにホーン隊、キーボード、もくわえた大所帯に移行しました。

  • ドラム‥‥ツイン・ドラムのドタバタした変拍子はオリジナル・マザーズのトレードマークといえるでしょう。オリジナル・マザーズに最初から最後までいたドラマーは、「ジ・インディアン・オブ・ザ・グループ」、ジミー・カール・ブラック(Jimmy Carl Black)。このひとのシンプルきわまりないドラム、好きなんですよね〜。他にはその後キャプテン・ビーフハートのバンドにもくわわるアート・トリップ(Arthur Tripp III: 5枚目「Cruising With Ruben & The Jets」以降)がいました。
  • ベース‥‥ベーシストは最初から最後までヒスパニック系のロイ・エストラーダ(Roy Estrada)。こわもてとは裏腹のすっとんきょうなヴォーカル・パフォーマンス、いじめられっこ系のキャラは最高。ベースはうまくはないけど独特の響きと雰囲気がありました。のちリトル・フィートの初代ベーシストに。ザッパとは仲が良かったみたいで、70年代、80年代の作品にもしばしば彼の名前をみつけることができます(主にボーカリストとして)。70年代後半のテリー・ボジオ期の最初、メンバーが不足していたときにエストラーダが助っ人として参加、来日もしました。
  • ホーン、キーボード‥‥オリジナル・マザーズでの音楽面での最重要メンバーはなんといってもイアン・アンダーウッド(Ian Underwood: 「We're Only In It For The Money」以降)。サックスやフルートなど木管全般からキーボードまでこなすマルチ・プレイヤーの彼は、自ら志願してマザーズ入りし、ザッパの右腕的存在となりました。「Hot Rats」での絶大な貢献はすばらしいの一言。それから、キーボード・プレイヤーとしては、オリジナル・マザーズ解体後もザッパ作品への参加があったドン・プレストン(2枚目「Absolutely Free」以降。リオン・ラッセル周辺の同名ギタリストとは別人‥のはず)も忘れられないひと。ヒッピー風マッド・サイエンティストみたいな風貌もさることながら、エレピの演奏もなかなかの存在感でした。
  • ヴォーカル‥‥マザーズのヴォーカルは、ザッパ本人、ジミー・カール・ブラック、ロイ・エストラーダなどが持ち回ってリードをとったりしましたが、ヴォーカル専門メンバーもいまして、それがザッパと旧知の仲でレイ・コリンズ(Ray Collins)でした。このひとはマザーズのオリジナル・メンバーでしたが、マザーズにはついたりはなれたり、わりにムラのある参加のしかたをしていたようです。あんまりツアーとかには参加しなかったのかな。彼の頼りなげな甘いテナー・ヴォーカルは間違いなくマザーズの個性でした。
  • ギター‥‥ザッパのバンドでは、常にザッパがリードギタリストなんですが、サポート・ギタリストが参加していることがあります。ファーストアルバムには、エリオット・イングバー(Elliot Ingber)というひとがいました。デビュー当時はそれなりにギターバンドっぽかったんですよね。その後セカンド・アルバム以降はしばらくはサイド・ギタリストなしだったんですが、オリジナル・マザーズ後期になって、のちにリトル・フィートを創始するローウェル・ジョージ(Lowell George:9枚目の「Burnt Weeny Sandwich」と10枚目の「Weasels Ripped My Flesh」、8枚目の「Hot Rats」にも参加しているらしい)が加入します。ただ、アルバムではあまりフィーチャーれていませんが‥。
  • その他‥‥ヴァイオリンやヴォーカルで数曲に参加したドン・シュガーケイン・ハリス(元ドン&デューイ)(Don "Sugarcane" Harris: 8枚目「Hot Rats」、9枚目「Burnt Weeny Sandwich」、10枚目「Weasels Ripped My Flesh」)の炎を吹くようなヴァイオリン・ソロに甘いボーカルもわすれられない。マザーズ以外のメンバーでかためられた「Hot Rats」(8枚目)には、ジョニー・オーティスの息子、シャギー・オーティス(Shuggy Otis: bで参加)、ジャン・リュック・ポンティ(Jean Luc Ponty: vl)、ザッパの高校時代からの友だち、キャプテン・ビーフハート(Captain Beefheart: vo)も参加しています。

(初稿:10/23/1996、最終改訂:9/16/2002)