From The Mind Of Lil' Louis ★★★★

Lil' Louis And The World / From The Mind Of Lil' Louis

::★★★★::1989::Epic::club::house::techno::
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シカゴハウスのオリジネーターのひとり、リル・ルイスのデビュー作。シングル指向、匿名指向のハウス・ミュージックの中で、アーティストのアイデンティティを強く押しだした最初の作品のひとつとして話題になったりもしました。内容はかなり低予算な音というか、まあ、チープなんですが、美的感覚がいちいち変態的なので非常に個性的です。乱暴にいえばハウス界のプリンス(しかもダウナーな)ということになるでしょうね。ミニマルなサウンドで、徹底してひんやりとした空間を実現している。リル・ルイスといえば男女のセックスのあえぎ声を変則ビートで追った「French Kiss」があまりに有名なわけですが、その他では「I Called U」が非常に独創的。浮気を察知した女が男に「電話したのよ、どうして留守だったの?」と不気味な、機械のような声でひたすら追及する一方で男が言いわけや別れ話をまくしたてるという前代未聞のハウス曲で、壊れた機械のように「I called you」とくりかえす女の声が恐すぎる。これじゃ踊れんだろ!という感じですが、他にも「Wargames」や「Blackout」のように通常のハウスの枠からはずれた曲もあり、異色です。しかしどうもリル・ルイスは異色な面ばかり強調されすぎているきらいがあって、「Tuch Me」「The Only Thing」「Nyce And Slo」のようなジャジーな側面のほうが本当の一面だったのではないかと後からみるとそう思われます。もっともこれらのジャジーな曲も不気味なほどの静けさと冷たさに支配されてますが。

個人的にはあまり何度も聴きたいと思う作品ではありませんが、歴史的な意味のあるアルバム。 (4/1/03)

Journey With The Lonely ★★★★★

Journey With the Lonely

Lil' Louis And The World / Journey With The Lonely

::★★★★★::1992::Epic::club::house::
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リル・ルイスのセカンド・アルバムにしておそらくラスト・アルバム。このアルバムに良くない評価をするひとが少なからず存在するのがとても不思議です。このアルバムはハウス史上に燦然と輝く名作だと思うんですけどね。リル・ルイスは変態的かつ独創的な「フレンチ・キッス」の評価が高すぎて、その十字架をせおってしまったとしか思えませんね。本作でリル・ルイスは前作とうってかわって非常にオーソドックスなジャジー・ハウスに転向するわけですが、どうもリル・ルイスが普通のことをやるだけで評価がさがるようなところがあるのではないかと。このアルバムは(あきらかに「French Kiss」の二番煎じをねらった「Aahhhh!」をのぞいて)ほんとうにまっとうなジャジー・ハウス。「男シャーデー」という悪口もきかれます。しかし、ここまでクオリティーの高いジャジー・ハウス・アルバムが存在するなら教えてほしいぐらいです。ヘヴィーな冒頭の「Club Lonely」に続くtr2「New Dance Beat」のフューチャリスティックな語り口と独創的なサンプル、ビートは今聴いても新鮮です。たしかに、エゲつない「Frech Kiss」や「I Called U」と同一人物とは思えないようなリリカルさと軽快さですが、良いことにはかわりありません。続く、ジョイ・カードウェルがリードボーカルの「Saved My Life」はジョー・ジャクソンの「Steppin' Out」(1982)をハウス的に展開したかのようなジャジー・ピアノ・ハウスの名曲。たしかに「フツー」ですが、徹底してミニマルな構成にリル・ルイスらしさを見ることができます。圧巻はアルバム後半。ハウス・ビートにこだわらず、ジャジーな音を組曲構成で聴かせます。ジョイ・カードウェルの柔らかなボーカルが素晴しいの一言のtr7「Dancing In My Sleep」、ビブラフォンと口笛の音を中心に流れるtr8「FunnyHow U Luv」、ルイスの囁くようなボーカルが心地よい非常に静かなtr9「Thief」、コンテンポラリーR&Bっぽいクワイエット・ストームなtr10「Share」、そして圧巻なジャズ・ハウスtr11「Jazzmen」と、一分の隙もありません。イージーリスニングに過ぎると思う人は、細やかな音響処理とミニマルな楽曲構成に、リル・ルイスらしさを見いだしてほしいとエラそうなことを思ったりするぼくであります。はい。 (4/1/03)