All Shook Up ★★★

All Shook Up (Exp)

Cheap Trick / All Shook Up

::★★★::1980::Epic::pop::rock::
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■ 色んなことが裏目に出た「つまずき作」

5枚目のスタジオアルバム。出だしの2曲が意味深です。冒頭のtr1「Stop This Game」で「このゲームはもう終わりだ、オレは変わった」と「終結宣言」をし、tr2「Just Got Back」では、以下のように高らかに歌い上げられます(作詞リック・ニールセン)。

Well just got back
Been gone too long
Wasn't my idea, didn't pull the trigger
Oh oh oh I I I I'm just so glad
I'm just so glad to be back home
戻ってきたぜ
長かったな
オレのアイデアじゃなかった、オレが引金をひいたわけじゃない
ああ、とにかく嬉しいよ
家に戻ってこれて最高に嬉しいよ!

チープ・トリックは自主録音に近かったデビューアルバムは別として、2枚目のアルバムから4枚目まで、レコード会社のエピックからトム・ワーマンというプロデューサーを押し付けられ、不本意ながら、とんがったところや毒をおさえたクリーンでポップなサウンドを強制されてきたわけですが、この5枚目でついにそこから開放されます。「Stop This Game」「Just Got Back」が、チープ・トリックの「独立宣言」に聞こえるのはオレだけじゃないでしょう。

チープ・トリックはもともと、1977年のデビュー作で聴けるような、ポップだがトゲのあるハードロッキンなグループだったわけですが、レコード会社の意向により、セカンドアルバム以降はポップでクリーンな音になってしまった。それで一応の成功は納めたし、セルフプロデュース作品だった「At Budokan」(なんせ、日本限定発売の予定だったから)が売れたということもあって、レコード会社の方も、「ここらでバンドの意向を取り入れても良いだろう」ということになったのだと思います。

ところが、運命とは皮肉なもので、その「独立宣言」をしたこのアルバムで、チープ・トリックはコケてしまいます。時代という魔物に惑わされて迷いが生じてしまった。

「独立」するには時代が悪かったと思います。70年代後半のディスコ・ブーム、続いてパンク・ムーブメント、電子テクノロジーの発達とともに、ニュー・ウェーブの時代の幕があけようかという時。キッス、エアロスミスといった70年代を代表するハードロックバンドがいずれも大苦戦していた時代です。そこで、ポップでドリーミーなイメージを築き上げたチープ・トリックがファーストのころのようなワイルドなロックンロールに戻るのは、明らかに先祖帰りっぽくて具合が良くない。

トム・ワーマンのサウンドは「不本意なサウンド」だったとして、じゃあ、自分らの「本来のサウンド」とは何なのか。そこで迷いが生じたんだと思いますね。しかも、プロデューサーを敬愛するビートルズを育てあげたジョージ・マーティンにしたのがそもそも選択ミスだったと思いますね。ジャケやファーストシングルの「Stop This Game」を聴く限りは、ニューウェーブを視野に入れた感じがするのに、なぜジョージ・マーティンというオールド・ウェーブの大プロデューサーなのか。もちろん「敬愛するプロデューサーだから是非!」という感じでオファーしたんだと思うんだけど、一番「時代」にリンクしない人を選んでしまった。

ちなみに、冒頭の「Stop This Game」は実はオレが最初に聴いた(ラジオでのエアチェック)チープ・トリックの曲なので、思い出深いです。でも、アルバムとしては全体的に曲がどうも小粒なんだよなあ、曲が。これまでチープ・トリックの曲と言えば、一度聴けば頭にばっちり焼き付く曲がアルバムに何曲もあったのに、このアルバムの曲はどれも印象に残らないのよねえ。特に、後半の曲はクォリティーが低い。前半はまだ良いんだけど…。サウンドもぜんぜんハードじゃないし。

とりあえず、このアルバムでチープ・トリックは評価的にもセールス的にもコケてしまい、しかも、不和から創立メンバーの一人であるトム・ピーターソン(b)が脱退してしまいます。(3/15/2007)