You Had It Coming ★★★★

You Had It Coming

Jeff Beck / You Had It Coming

::★★★★::2001::Epic::pop::rock::
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エレクトロニカ路線を突き進んだ傑作

10年ぶりに「新しいサウンド」で驚かせたジェフ・ベックですが、今作ではプロデューサーにトニー・ハイマスより新しい世代のアンディ・ライトを迎えて、さらに新しい領域に踏み込んでいます。基本的には前作と同じ、エレクトロニカ、それにインド音楽少々という路線なんですが、今回はビートがより本格的エレクトロニカになっているうえに、ギターを初めとする演奏の解体ぶりが思い切っていて、前衛的とさえ言えます。

まず冒頭「Earthquake」での、ジェニファー・バトゥンのペンによるスケーターロックかスラッシュメタルかというようなハードなギターリフ(ここによればプレイしているのはバトゥンではなくベック自身だそうです)と変拍子エレクトロニカ・ビートの洪水に驚かされますが、続くファンキーなtr2「Roy's Toy」、tr3「Dirty Mind」でのベックのギター・リフのカッコ良さにもしびれます。実際に弾いた演奏をサンプリングしてループしているのか、実際に弾いているのかはわかりませんが(「Dirty Mind」は明らかにループだと思いますが)、どちらにしても「サンプリング・ループ感」が強く、ビートはエレクトリニカでも演奏自体は普通だった前作との違いを感じさせます。

続くマディー・ウォーターズのカバーtr4「Rollin' and Tumblin'」が超カッコいい! こんなに泥臭さと現代性がうまく融合した曲は聴いたことがありません。ベック自体がもともとベテランながら既成の枠からはみだしまくっているギタリストだからこそ生まれたんだと思います。新鋭女性ボーカリスト、イモジェン・ヒープのボーカルもイントロの「Ooh yeah!」というシャウトからしてシビレます。

そしてこのアルバムのハイライトと言えるtr5「Nadia」になだれ込みます。この曲は、イギリスのインド系エレクトロニカ・アーティスト兼演劇俳優であるニティン・ソーウィーの女性インドボーカルの曲をギターで完コピした曲なんですが、神がかったその美しさは鳥肌もの。ベックがオリジナルを聴いて感動して自分でカバーしようと思い立ったそうですが、オリジナルと同じアレンジながら、ベックのギターの表現力はへたしたらオリジナルのボーカル・バージョンを超えているのではないかという気さえします。齢57にして新境地。ジェフ・ベック先生すごいです。

ということで、tr1〜5の流れは完璧です。また、ラスト2曲が非常に前衛的。tr9「Blackbird」は、なんと鳥さえずりとベックのギターが「会話」する曲で、そしてそれはそのまま、壊れそうなほど美しくダウナーなtr10「Suspension」に移ります。マッシブ・アタックっぽい。

ただ、このアルバムが惜しいのは、ベックの演奏を解体・再構築した結果、斬新にはなったが奥深さが犠牲になってしまったところでしょうか。ですからtr5「Nadia」を頂点として、後半少々飽きが来ます。後半の曲も前半の曲とクォリティー的にはまったく劣らないだけに、惜しい点です。(3/6/07)