Livro ★★★★★

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Caetano Veloso / Livro

::★★★★★::1998::Elektra::brazil::
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■ 前衛とブラジリアン・メロウネスが融合した詩的な傑作

素晴しいです。この作品が出た段階で、ブラジリアン・ポップスの異端児カエターノ・ヴェローゾが最初のアルバムを出してから30年以上経っているのですが、こんな超ベテランでいて、音楽の新鮮さがまったく衰えていない。しばしばボブ・ディランあたりとも比較されるヴェローゾですが、ひとつ年上のディランが相当前に全盛期の新鮮さを失っていた(なんていうとシバかれるかな)ことを考えると、ヴェローゾのこの瑞々しさはいったいどこから来るのかと不思議にさえなってきます。これもブラジルという国の魔力なのだろうか。恐しい。「本」というタイトルとジャケから見てもわかるとおり、このアルバムはかなり文学的というか、いや、「文学的」なんていうといかにも陳腐だな‥。とにかく、短編小説集のように色んな色があってカラフルで、そしてとても知的です。ジルベルト・ジルとの「トロピカリア」シリーズにも通じるものがあります。冒険を恐れない音なんだけど、同時にものすごく大人な世界で、奇をてらったところがなく、流れるのはひたすら豊かで美しい音世界。でも良く聴けば、美しいメロディの影にいろいろな過激さがひそんでいるという。捨て曲の一切ないアルバムですが、でもやはりメロウさに徹した曲がすばらしいな。NYのマンハッタンを詩的に描いた「Manhata」とか。そういえばこのアルバムはとてもニューヨークっぽいところがありますね。アートっぽいところが。他のメロウな曲ではボサ系の「Voce e Minha」や「Minha Voz, Minha Vida」が完璧すぎますね。てゆうかなぜこの人の作曲能力は衰えないんだろう(驚)。実験系の曲では、どこかほのぼのとした「How Beautiful Could A Being Be」(存在物はどこまで美しくなれるんだろう)が良いす。実験的といってもめちゃトロピカルで楽しい曲なんだけど。そしてラスト「Pra Ninguem」では、ブラジルの素晴らしい音楽家の名前をひたすら静かに歌いあげ、続けて「これより素晴らしいのは静寂だけであり、そして静寂より素晴らしいのはジョアンだけである」と結びます(ジョアン=ボサ・ノーヴァ創始者、ジョアン・ジルベルト)。嗚呼、その通りです。こんな大胆で素敵なオマージュは聴いたことがありません。 (4/22/03)