Blue Jam (Single) ★★★

f:id:ghostlawns:20070830201013j:image
Blue Jam

Bonnie Pink / Blue Jam

::★★★::1995::ポニー・キャニオン::pop::rock::jp::
iTS US / iTS JP(→iTSについて

■ 未完成ながら興味深いデビュー作

ボニー・ピンクはアルバムごとにスタイルを少しずつ変えていくことで知られていますが、それを考慮してもこのデビューアルバムはセカンドアルバム以降とは相当に違う世界で面食らうほどです。とにかく男っぽい。漢っぽい。これを聴いてボニー・ピンクはゲイに違いないと思ってしまったほど(そういう噂は聞きませんが)。中ジャケの写真も非常に中性的だし。

音楽的には全体にブルージー。一曲目のハードロック的なギターからして面食らいますが、もっと驚くのがそのボーカルスタイル。低音を強調した、野太くアグレッシブな歌唱。予備知識なく名前を伏せて聴いたらこれがボニー・ピンクだと分かる人はいないでしょう。もっともこれが地声でないのはセカンドアルバム以降を聴いてもあきらかで、このアルバムでも、tr3、4や初期の代表曲tr8「オレンジ」などでは普通の発声です。つまり意図的にこのような野太い歌唱をしていたわけです。

ふつう、デビューアルバムというのはそのアーティストの「原点」が多かれ少なかれ反映されているものです。その点、このアルバムからは後のボニー・ピンクというアーティストの「原点」が見えにくい。見えにくいだけに謎めいていて余計興味深い。デビュー当時のボニー・ピンクは何を考え、何を表現しようとしたのか。ちなみに、中ジャケには以下のような言葉が大きく印刷されています。

Blue Jam is a mixture of bitter honey, blues music, momentary silence, irresistible madness, teardrops, sourgrapes, hopeful bombs, big big love, and a few green apples.

ほろ苦いキーワードのなかにはっきりと「blues music」という言葉が見えるのが興味深いですね。

最後に、全体的な完成度についてですが、やはり習作という雰囲気は隠せず、歌唱のスタイルが一定していないこと、ソングライティングの技術が未完成だということも含め、隙の多いアルバムだと言えましょう。しかしボニー・ピンクの歴史に興味がある者には大変興味深いアルバムです。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • このアルバムでもっともヘビーな曲はtr1「Scarecrow」とtr2「Curious Baby」ですが、前者はイントロのギターはかっこいいものの、全体としてはグルーヴ不足かなという感じです。ブルージーな後者の方が個人的には好き。
  • 暗く70年代ニューミュージックのようなtr4「背中」、ダークで実験的なtr5「Freak」、シンプルでファンキーなtr6「Too Young To Stop Loving」あたり、のちのボニー・ピンクにはない芸風でおもしろい…けど完成度はまだまだか。
  • このアルバムのベストトラックはやはり最後の2曲。まずtr7「Maze Of Love」はスライド・ギターをフィーチャーした70年代っぽいアーシーなブルーズ・ロック曲で、長いジャムセッション・パートも含め7分を超える意欲作。勢いで押す未完成な歌唱が非常に良いです。そしてデビュー曲tr8「オレンジ」はソウルフルな佳曲。ベースラインが70年代のニューソウルっぽい…と思ったけど、これはボニー・ピンクが好きだ(った)というレニー・クラヴィッツの70年代ソウルへのオマージュ「It Ain't Over Till It's Over」の意匠か。