Present ★★★★★

Present (CCCD)
Present

Bonnie Pink / Present

::★★★★★::2003::Warner Music Japan::pop::rock::jp::
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ボニー・ピンクの魅力が開花した傑作アルバム

6枚目のアルバム。

オレの考えるところではこのアルバムで、ボニー・ピンクは真の意味で開花したと思います。プロデュースは1曲目のみトーレ・ヨハンソンとの再タッグ、残りはD*Noteのキーボードで、アシッド・ジャズ/クラブ畑のマット・クーパーですが、アシッド・ジャズ風味もスウェディッシュ風味もほとんど感じられないアルバムです。このアルバムは、乱暴に言えば、ボニー・ピンクがついにJ-Popになったというアルバムなのです。それまで、髪をショートにして、時には真っ赤に染め、「女性性」を拒否し、邦楽を避け、洋楽志向だったボニー・ピンクが、その自らの縛りをついにやぶった作品です。「Just A Girl」のころにすでに髪は黒っぽく戻り、髪も伸び始めていましたが、このアルバムでついに髪の色が黒に戻り、髪もセミロングになりました。そして、ジャケットの写真も、これまでの中性的(あるいは男性的)イメージから、よりフェミニンなものに変わっています。

この変化は音楽にも如実に現れています。それは、音楽がフェミニンになったという意味ではなく、女性性を無理して拒否することがなくなったということです。洋楽志向も薄れ、あざといまでにキャッチーな曲を演奏することも恐れません。サウンドも、今までの渋みのある音から、粒の立った打ち込みのビート、華美なキーボードにボニー・ピンクの「Daisy」以降のトレードマークであるアコースティック・ギターがからむという独特のものになっています。

しかし、何よりも変わったのはボーカルでしょう。デビュー作「Blue Jam」では意図的にアグレッシブに歌い、「Daisy」、「Let Go」、「Just A Girl」では意図的に「自然体」を追求したボニー・ピンクでしたが、ここで初めて彼女は「エンタテイメント」としての歌に真摯に向き合っています。自然体をもとめるあまり内省的になり過ぎることもなく、より聴き手に自分の言葉、メロディーが届くような歌唱になっています。押すときは押し、引くときは引くという緩急をつけた歌唱です。

「evil and flowers」を最初に聴いて、「小粒だな」とあなどっていましたが、次にこのアルバムを聴いてショックを受けました。非常に力強く、かつ非常にポップで分かりやすい傑作です。(9/1/2007)


この曲を聴け!

  • 冒頭の「Tonight, the Night」(シングルカット)は3度目の再生を遂げた新しいボニー・ピンクを高らかに宣言するのにふさわしい曲です。それまでのどのアルバムにもなかった、派手でポップでJ-Pop的なサウンドに驚いた旧来のファンも多かったのではないでしょうか。しかし、これを商業主義へのおもねりと考えるのは早計です。確かにサビは派手でキャッチーですが、全体にメロディー、構成ともに良く練られており、また、サビ前の「格好なんてつけなくていいよ」という部分でのファルセットの絶妙な混ぜ方とリズムにはオレは鳥肌が立ちますね。
  • しかし、オレ的に「Tonight, the Night」を超える名曲がtr3のタイトル曲「Present」。「Tonight, the Night」とうってかわってブルーな恋愛の歌詞ですが、そのせつなさが歯切れの良い打ち込みとギターの織りなすビートに導かれて表現されています。ボニー・ピンクのボーカルは歌いだしからサビまですばらしい。ファルセットの使い方も効果的だし、緩急があるし、それからこのアルバムから顕著ですが、16ビートの符割りが自然にできるようになり、リズムが非常に良くなった。このアルバム以降のボニー・ピンクに批判的なファンも少なからずいますが、しかし断言できるのは、この曲で聴けるような歌唱の表現力は初期のアルバムには絶対なかったということです。ということで、オレ的にはボニー・ピンクの全楽曲の中でもトップ5に入るほど好きな曲です。
  • tr8「Can't Get Enough」、tr10「Chronic Vertigo」の2曲も非常に好き。前者はファンキーなロックチューンで、サビの「Can't get enough, can't get enough, enough of you」での線の細いボーカルが逆に良いですね。後者もファンキーだけれども、それよりとにかく歌詞がユーモアがあっておもしろい。例えば「外食は週に一度/外泊も週に一度だけ/入浴は毎日してるけど/さっぱりしないのはなぜかしら」とか、「体重は甘えた数/身長は背伸びした数/足し算と割り算は上手/でも捨てられないのが恋と言うもの」とか、このようなちょっとおもしろい言葉遊びは今まではあまりありませんでした。ボーカルの16ビートのリズムも非常に良いし、「超高層ビルの屋上で」の「の」だけでファルセットになるところもカッコいいです。
  • 他の曲も、打ち込みビートを除けばけっこうアコギ主体の曲で、実は「Let Go」「Just A Girl」との連続性もけっこうあるアルバムだなと聴き直して思いました。それだけMatt Cooperのプロデュースが良かったということか。