At Budokan ★★★★★

Cheap Trick at Budokan
チープ・トリックat武道館(紙ジャケット仕様)【2012年1月23日・再プレス盤】

Cheap Trick / At Budokan

::★★★★★::1978::Epic::pop::rock::
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■ 日本のファン向けのはずがアメリカでヒットしてしまったライブ盤

期せずしてチープ・トリックの出世作となった武道館ライブ。バンド解説の【活動】のところにも書きましたが、アメリカでブレイクする前にチープ・トリックは日本ではアイドル的大スターで、熱烈歓迎してくれたファンにお返しする意味で日本のみで発売される予定だったのがこのライブ盤。しかし、日本からの輸入盤として評判が評判を呼び、アメリカで売れ始めたため、レコード会社があわてて本国での発売を決定したといういわくつきのアルバム。このアルバムからのシングルtr7「I Want You To Want Me」は、日本の女の子ファンの熱唱に押されてビルボード7位まで昇るヒットとなります。

さて、このアルバムがヒットしたのは、スタジオ盤では抑えられていたチープ・トリック本来のハードでラフな一面が曲のポップさと相互作用を生んだからだと良く言われています。ただ、本当のところ、言うほどハードな演奏でもないんですが(1999年の「Music For Hangovers」や2001年の「Silver」の方がずっと演奏はハードでエッジがあります)、2作目「In Color」に比べるとハードかもしれません。

興味深いのは選曲、全10曲の内訳です。

  • 1st「Cheap Trick」0曲
  • 2nd「In Color」6曲…「Hello There」、「Come On, Come On」、「Big Eyes」、「I Want You To Want Me」、「Good Night」、「Clock Strikes Ten」
  • 3rd「Heaven Tonight」1曲…「Surrender」
  • 未発表曲(当時)3曲…「Lookout」「Need Your Love」「Ain't That A Shame」(「Need Your Love」は4th「Dream Police」に収録。「Ain't That A Shame」はファッツ・ドミノのカバー)

当時の新作だった「Heaven Tonight」のプロモーションツアーだったはずなのに、選ばれた曲は「In Color」からのものがほとんど、そして、さらに興味深いのは、10曲という限られた枠の中で3曲も未発表曲(当時)を入れている点です。さらに、A面B面の構成がおもしろい。冒頭tr1「Hello There」からtr2「Come On, Come On」になだれこむのは定番だから当然として、次に「In Color」に入らなかった未発表曲tr3「Lookout」、続いて「In Color」からヘヴィーなtr4「Big Eyes」、そしてA面締めにあたるtr5が当時未発表だった8分に及ぶ「I Need You」。非常に渋い選曲というか、どちらかと言うと少々ヘビーでダークなA面なんですね。しかもそれが非常にうまく機能しているんです。ここに、チープ・トリックのささやかな「反抗」が見て取れる気がします。つまり、「レコード会社の方針で角のとれたサウンドや曲をやらされているけど、オレたちは本当はこういう音がやりたかったんだ」という。もっといえば、「本来In Colorはこういうアルバムになるはずだった」と言いたかったのかもしれない…というのは妄想が過ぎるでしょうか。

ともあれ、もしこのライブ盤があらかじめ全世界で発売される計画だったら、おそらくレコード会社は「もっとA面に代表曲をガンガンいれてポップな内容にしろ」と言ったことでしょう。しかし、日本限定という前提だったから、バンドはレコード会社の介入を受けずに、少々ダークな内容にすることができた。バンドにとってはその意味、「日本限定」だったのはラッキーだったと言えるのではないでしょうか。

ダークなA面に対して、B面に当たるtr6〜10は、ファッツ・ドミノのカバーtr6「Ain't That A Shame」(これが良い!)、このアルバムのおかげで代表曲となるtr7「I Want You To Want Me」、シングルだったtr8「Surrender」、tr9「Good Night」、tr10「Clock Strikes Ten」と、ポップな一面が炸裂します。いずれも非常に良い選曲・演奏です。

ということで、このアルバムは、(当時の)未発表曲が10曲中3曲も含まれていることもあり、単なる「ファンのためのライブ盤」というより、一つの独立したアルバムだとオレはとらえています。そして、「もしレコード会社が干渉しなかったら70年代のチープ・トリックはどんなスタジオ盤を作っただろうか」ということをつい考えさせる、そんな罪作りなアルバムでもあります。(3/15/2007)