The Complete Monterey Pop Festival [DVD] ★★★★★

The Criterion Collection: Complete Monterey Pop Festival [DVD] [Import]

V.A. / The Complete Monterey Pop Festival

::★★★★★::1968/2002::Criterion Collection::rock::pop::

DVD界のRhino Records(?)であるCriterion Collectionが送り出す、モタレー・ポップ・フェスティバル(1967年開催)の完全版=映画「Monterey Pop」(1968年公開)+ジミ・ヘンドリックスの「Jimi Plays Monterey」、オーティス・レディングの「Shake! Otis at Monterey」(ともに1986年公開)+アウトテイク集の3枚組。

モンタレー・ポップといえば、オレにとっては「Jimi Plays Monterey」。18年ほどまえ、大学生時代に確か吉祥寺のバウスシアターでこのフィルムを観て度肝を抜かし、高校時代に聴いてこれまた度肝を抜かしたアルバム「Jimi Hendrix Concerts」とともに神聖不可侵な教典となった作品であります。超久々の再会となるこの作品プラス未見の2枚のDVD。その感想や如何に。

まず、1枚目のオリジナルの映画「Monterey Pop Festival」ですが、割りに冷静に、「まあこんなものか」と観させていただきました。割と普通の「時代の風俗の記録」という感じ。一番印象に残ったのがラストのラヴィ・シャンカール

f:id:ghostlawns:20061125053349p:image ※写真:シャンカール。若い!! こんだけ若い頃だと娘のノラ・ジョーンズに似てるね。

ヒッピー文化のスピリチュアリティの象徴としてシャンカールが出てくるのは時代背景的に理解できても、2000年代の現代に観るとそういう演出はいかがなものか…と観る前は思ったオレですが、観てからごめんなさいと平伏しました。たぶんインドの純粋な伝統音楽からすると少々硬質にすぎるんでしょうが、その硬質さがそのへんのロックよりロック。その火を噴くようなインプロヴィゼーションとめくるめく反復性がその後のロック、そしてそれ以前のジャズ(特にマイルズのエレクトリック・ジャズ)に与えた影響は果てしないでしょう。観客のスタンディング・オベーションは、ジミヘンに対するものよりもはるかに大きいものであります。

2枚目はジミヘンとオーティスの映画。両方ともすでに観ているので大感動という感じでもなかったですが、簡単に感想なぞ。

まずジミヘンですが、キャリア初期の天才的パフォーマンスということで、比較的数が残っているジミヘンのライブ映像では最高の勢いと冴えが楽しめます。このときの強烈すぎるステージである意味イメージを決定付けすぎてしまったジミが、この後死までの数年感、視覚的テンションをどんどん下げて内省的とも思える演奏に没頭するのは皮肉とも言えるでしょう。しかし、今回改めて観て気付いたのですが、フルに収録されている7曲のうち、オリジナルは2曲だけ("Foxy Lady"と"The Winds Cry Mary")で、残りの5曲はすべてカバーなんですよね("Killing Floor"(ハウリン・ウルフ)、"Like A Rolling Stone"(ボブ・ディラン)、"Rock Me Baby"(BBキング)、"Hey Joe"(ラヴ、ザ・リーヴズ)、"Wild Thing"(ザ・トロッグズ))。それにも関わらず100%ジミの色に染め上げられているのがすごいと改めて実感。特に「Killing Floor」と「Rock Me Baby」の2曲のブルーズ古典曲の猛烈さには圧倒されるばかりです。

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※写真:ギターソロの途中にフレットを握る方の手をギターから完全に離してしまうという常識はずれな行動もジミならでは

ちなみにジミのMCで「ボブ・ディランのおばあさんです」と何回も言われるノエル・レディングがちょっとかわいそう(笑い。

オーティス・レディングですが、短いのよね。たった5曲。このモンタレーのステージはすごい!と評価する人が多いですが、過大評価は禁物。もちろんオーティスのパワーは圧倒的だし、白人オーディエンスに、どんなロックよりも熱いロック魂がソウルに宿っていることをつきつけたオーティスの功績は文句なしにすばらしい。でも、パフォーマンスのクォリティーだけとれば最高とは言えないでしょう、これは。まあもともとオーティスはクォリティーより勢いを取る人なので、勢い余って呼吸が苦しくなってしまう様子も含めてオーティスらしいと言えるかもしれないけど、オーティスのすばらしさはこの程度じゃないでしょう。サム・クックはライブでどんなに熱くなってもボーカルの緩急は完全にコントロールしていたと思うよ。あと、5曲だけで短いのが不満ですね。しかもアップかスローのみなので、ミドルテンポで発揮されるバックのブッカーT&ザ・MGズの良さが味わえないのも残念。とはいえ、「I've Been Loving You Too Long」ではやはりホロリ。

さて、3枚目、アウトテイク集ですが、今回のDVDのもっともすばらしいのがこのディスクだと感じました。オレは別にクラシック・ロック・マニアでもないので、渋どころの映像が観られるってだけでは特にありがたみも感じないんですよ。でも、この3枚目はすばらしいと思いましたね。まず第一に、1枚目、2枚目と違い、ギミックなしにライブ演奏のみを収録しているのが生々しくて良い。第二に、とにかく演奏がすばらしい。観た感じ、夜の部の演奏より昼の部の演奏のほうがクォリティー高いかも? もしかしたら夜の部は技術的な問題があったのかもね。いやでもそれ以前に、昼の部の演奏は肩の力が入ってない、リラックスした、落ち着いた演奏で良いのよね。

そう、このディスクを観て感じるのは、巨大化するロックがまだかろうじて「ミュージシャンシップ」をベースにしていた時代があったという事実。野外ロックフェスの先駆けであるモンタレー・ポップは、観客も非常に大人しく、皆椅子に座って音楽を鑑賞している。ウッドストック以降のワイルドさとは無縁で、皆音楽を聴きにきているんだよね。演奏する方も、ギミックよりも、誠実に大衆音楽の発展の可能性を探求している。そのミュージシャンシップの高さにオレは恐れ入りましたよ。

f:id:ghostlawns:20061125060647j:image 特に気に入ったのがオレがこれまであまり聴いてこなかったしぶめのアーティストたちの演奏。カントリー・ジョー&ザ・フィッシュの「サイケデリック」では片付けられない地に足がついた確かな演奏、アル・クーパーの(歌はヘタクソだが)グルーヴィーなジャズ・ロック、ポール・バターフィールド・ブルーズ・バンドの驚くほど深みのあるホワイト・ブルーズ、レイドバックしたシンプルなギターロックを聴かせてくれるクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィス、そして、マイク・ブルームフィールドのギターがすばらしく、バディ・マイルズのドラムズの異能な存在感(すげー!)が圧倒的なエレクトリック・フラッグのスウィンギング・ブルーズの躍動感。演奏がすばらしいだけでなく、ジャズ、ソウル、ブルーズ、ロックなどの様々の要素に対する深い素養が感じられる奥行きのある内容で、ロックってこんな深い時代があったんだなあと感心することしきり。※写真:良い味出し過ぎ、エレクトリック・フラッグのマイク・ブルームフィールドとバディ・マイルズ

一方、夜の部のより有名なロックバンド(バーズ、ジェファーソン・エアプレイン、バッファロー・スプリングフィールドザ・フー)の演奏は完成度の点ではちょっと劣るかなあと思いました。とはいえ、バーズが3曲も収められているのはやはり感激。デイヴィッド・クロスビーが「オレが大将」とばかりに、内向的なロジャー・マッギンを押さえて目立ちまくっているのがおもしろいけど、やっぱりオレ的にはロジャー・マッギンの控えめな存在感に惹かれます(人間的には全然控えめじゃなかったらしいけど)。

ジェファーソン・エアプレインの「サムバディー・トゥ・ラヴ」は、観る前は「なんでこの曲が1968年の映画に採用されなかったんだ?!」と思いましたが、演奏を観ると、PAの不調か、確かに最高の演奏とは言えない感じでした。とはいえ、時代を象徴する力強い名曲がライヴで観られるのはとてもうれしい。当時のグレース・スリックはかわいい。

絶滅種のごとく貴重なバッファロー・スプリングフィールドのライブ映像は、ニール・ヤング脱退後のせいかあまりぱっとしない感じがしました。「For What It's Worth」という選曲はナイス。

昼の部に戻りますが、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー(とジャニス・ジョプリン)ですが、このアウトテイク集の昼の部のクォリティーに比べるとほんとドヘタクソだな〜とあらためて思いました。脇役にまわっているジャニスがちょっと不憫。

再び夜の部に戻ってザ・フーは「Substitute」「Summer Time Blues」「A Quick One」の3曲が収録。オレはピート・タウンゼントは当時のいわゆるブリティッシュ・インヴェイジョン系で最高のギタリストだと思っているので、こうしてまとまった映像が観られて感激。ほんとこのバンドは、タウンゼントとキース・ムーン(ドラム)の二人のバンドだなあと。豪快なようでいて繊細なタウンゼントのギター、そして観ているだけでテンションがぐんぐん上がってくるキース・ムーンの壮絶としか言いようのない無茶苦茶なドラミング(それでいてミッチ・ミッチェルよりはるかに安定感がある…そこが天才と凡人の違いか)の組み合わせは最強だね。

f:id:ghostlawns:20061125061857p:image ※写真:元祖布袋寅泰ピート・タウンゼント

スター性だけのロジャー・ダルトリーのボーカルも、「Substitute」「Summer Time Blues」のようなストレートな曲ではすばらしいんだけど、「A Quick One」ではあきらかに駄目駄目。というか、表情からして「なんでこんな転調だらけの変な曲をやるの? 意味わかんねーよ。長いし」という感じで笑える。のちの「ライヴ・アット・リーズ」ではもっとこなれる演奏も、この段階ではちょっとぎこちない。

ところでこの曲、「Bang! Bang!」以降はタウンゼントがリード・ボーカルだったのね。歌唱力がダルトリーと大差ないので気付かなかった(もちろんダルトリーがヘタだという意味です)。で、ダルトリーのやる気なさそうな感じと対照的にタウンゼントが嬉々として歌って演奏しているのがおもしろい。そして、さりげにすごいと思ったのはキース・ムーン。こんな複雑な曲なのに、無茶苦茶叩いているように見えるムーンがまったくミスすることなくタウンゼントとあうんの呼吸で演奏しきっているところに狂気の裏のクレバーさを観た。

しまった、ちょっとだけ感想かこうと思ったのにすごく長くなってしまった。

さいごに一言。「昼の部」のミュージシャンシップをたっぷり感じさせてくれる演奏のあとにジミヘンの演奏を聴くと、ジミヘンの「ミュージシャンシップ云々」のレベルをはるかに超越した、異次元レベルのつきぬけた演奏の、常軌を逸したとんでもなさ、ものすごさ、筆舌に尽くしがたい天才というものが実感されます。そして、このフェスティバルにおけるザ・フーとジミヘンの爆発的な演奏が、牧歌的なロックの時代に終止符を打ち、ロック巨大化の幕を切って落とすんやね。そしてその巨大化の過程にジミ自体がその精神の繊細さゆえに押しつぶされてしまい、死をむかえてしまうのがなんとも皮肉です。

PS: ママス&パパスに触れられなくてスマソ。

PS2: ローラ・ニーロに触れられなくてスマソ。

PS3: 改めて思ったけど、プリンスのギターの弾くときのアクションはこのモンタレーのジミヘンの完コピ。

PS4: ボーナスでついているTiny Timの、薄暗いクラブでの演奏が非常に、非常に!良い味を出しています。



(11/24/06)