I Want You ★★★★★

I Want You

Marvin Gaye / I Want You

::★★★★★::1976::Motown::soul::r&b::
iTMS US / iTMS J

個人的に「What's Going On」と並ぶほど好きなアルバム。「Let's Get It On」に続く性愛路線のアルバムですが、「Let's Get It On」での健康美はここにはなく、苦悩と内省の連続という感じ。マーヴィンの精神状態が反映されていたのかも知れません。もともとはリオン・ウェアとTボーイ・ロスが自身のために用意していた素材をマーヴィンが聴いて気に入って急遽マーヴィンのアルバムとして制作されたもので、70年代の他のアルバムに比べるとあまりマーヴィン自身が作曲などにに深くかかわっていない作品なのですが、マーヴィン色はいつもより色濃くでているのが興味深いところです。

冒頭のヒット曲「I Want You」からして、非常に官能的で、かつ、まるでマーヴィンの精神を覗き見しているかのような混沌とした世界。あらわれては消えるマーヴィン自身によるヴォーカルの多重録音は、まるで自分の中の多様な側面のつぶやきや叫びのよう。実に複雑な味わいです。

    I want you the right way
    and I want you to want me too
    just like I want you

という歌詞も深い余韻を残します。

次の「Come Live With Me Angel」もエロティックな混沌に支配されてます。なにか不安感にさいなまされてるかのような、消え入りそうなマーヴィンのヴォーカルが痛々しいほど。後半3分の長きにわたってにわたって続くグルーヴィーなインストパートがすごい。グルーヴィーなリズム、どこか悲しげなトランペットソロ、不安感をあおるようなクラヴィネットの重い響き、はかなげなコーラス、アドリブで言葉をはさむヴォーカル、延々続く女性の喘ぎ声‥。カオス的アシッドジャズです。

個人的に大好きなのは「Since I Had You」。どこかひきずるようなグルーヴのイントロに続いて、マーヴィンのコーラス、語り、ストリングス、そして、アドリブ気味に入るマーヴィンのリード・ヴァーカルの第一声。ここがスゴい! ファルセットなんですが、「このコード展開でなんでこの音から入るかな〜」とうならされます。凡人の発想とは違いますね。全体的にも、この曲のマーヴィンのファルセットのメロディーの自由度は芸術的。流れるように進行する独特の曲構成も不思議な感じです。個人的にマーヴィンの曲でもっとも好きなもののひとつ。

他、ヒットした「After The Dance」、アルバムの中ではなごみ系であり、同時にボーカリゼーションの複雑さも飛び抜けている「All The Way 'Round」など、捨て曲がないアルバム。マイケル・ジャクソン(こども)のヒット曲をまったく違う曲のようにアレンジした「I Wanna Be Where You Are」は愛する家族へのメッセージ。アルバム中唯一マーヴィンの安らいだ表情を見ることができます。(たった十数秒しかないのが残念‥) (4/9/02)