Midnight Love ★★★★

Midnight Love

Marvin Gaye / Midnight Love

::★★★★::1982::Columbia::soul::r&b::

離婚問題にからみモータウンを追われ、ヨーロッパに隠遁していたマーヴィン。そういう事情のため、録音がベルギーでされたという、USブラック・ミュージックとしてはめずらしいアルバム。そして、「復帰後」の新しいマーヴィンの正式な作品としては唯一のものであり、遺作でもあります。

全体的には、自宅録音的な色合いが強いと言うか、音的にはかなりチープなのですが、それでもなおかつ華があるのがマーヴィンの強み。また、ミュージシャンをやとえなかった状況を逆手にとった、リズムマシンの独創的な使用は、ブラック・ミュージック史上でも重要なできごとでした。

ヴォーカル的には、相当屈折していた70年代後半が嘘のように、まるでつきものがとれかのような、肩の力の抜けた表情をみせてくれます。「Sexual Healing」でのポジティヴな性の讃歌は、70年代の代表曲、「Let's Get It On」の再来とでも言うべきものでしょう。

その他、ぼくが好きなのは、まず、スローバラードの「'Til Tomorrow」。歌手としての天才的なメロディー・センスを感じることができます、実に神秘的で神聖な雰囲気さえただようラヴ・ソングで、個人的にマーヴィンのベストトラックのひとつ。ちなみに、このアルバムはアイズリー・ブラザーズにも影響を与えるのですが、「Between The Sheets」(1983)や96年のアルバム収録の「Let's Get Intimate」という曲はこの「'Til Tomorrow」的世界が展開しています。

ミドルテンポのダンスナンバーtr5「Turn On Some Music」もとても良いのですが、やはりラストの「My Love Is Waiting」が良いなぁ。マーヴィンのヴォーカルがほんとうに静かで安らかな表情なんです。まるで何かを悟ったかのような。曲最初の語りで神に謝辞を述べていますが、結局これが本当の意味での「マーヴィン最後の歌」となってしまうことを考え合わせると、なんだか運命のようなものを感じてしまいます。合掌。 (4/10/02)