Hot Rats ★★★★★

Hot Rats

Frank Zappa / Hot Rats

::★★★★★::1969b::Bizarre::pop::rock::
iTMS US

(zappa catalog #8)

ザッパ史においてこの1969年というのはつくづくスゴイ年だったと思います。なんといっても、「Uncle Meat」と「Hot Rats」という2つの性格の異なる傑作が立て続けに発表されたのですから。

この「Hot Rats」は、「Lumpy Gravy」に続く2つめのソロ名義の作品。「Lumpy Gravy」が、マザーズの音楽指向性の延長線上にあり、マザーズのメンバーも多く参加していたのに対し、この「Hot Rats」はマザーズとは違う方向をめざした作品。しかも、新たにマザーズに合流したマルチ・プレイヤー、イアン・アンダーウッド以外はマザーズのメンバーは一切参加していないという意味で、この作品は純粋に「ソロ」的な性格をもっているといえます。

では、このアルバムはどういうコンセプトでつくられたのかといえば、ずばり「ジャズロック」です。しかもかなりブルージィな。ここでは、(良い意味で)鈍クサイ持ち味のマザーズの演奏陣を離れ、シャープな演奏をする外部のミュージシャンが起用され、ジャズ/ブルース的即興演奏の可能性が追及されています。

色々なミュージシャンが参加しているこのアルバムですが、キイとなるミュージシャンは、やはり、イアン・アンダーウッド。木管類全般からキーボード全般をすべてひとりでこなしています(つまり多重録音)。全曲に参加しているのはザッパ本人とイアンだけで、まるで二人の共同作業のよう。イアンは比較的後から加入したメンバーですが、イアンがマザーズに志願して加入して、ザッパがイアンの確かな音楽的技術と素養を目のあたりにしてはじめて、この「Hot Rats」のアイデアが具体化して実現したのではないかという気がします(憶測にすぎませんが)。イアンなしでは、少なくともこの時期に「Hot Rats」が完成することはなかったのではないか、という気がするのです。

たわごとはともかく‥曲の話にうつりますと、全6曲中、ヴォーカルが入っているのは2曲目の頭だけで、あとはすべてインスト。アナログでいえばA面1曲目とB面1曲目にあたるtr1とtr4が、かっちりアレンジされた小品、アナログA面2曲目、B面2曲目にあたるtr2とtr5が長い長い濃密なインプロヴィゼーション大会、アナログA面最後、B面最後にあたるtr3とtr6は比較的かっちりアレンジされたメロウなナンバー、というようにA面B面ともに、オードブル、メイン・ディッシュ、デザート、というような構成になっているのがおもしろい。

冒頭の「Peaches En Regalia」はザッパの曲中もっとも人気のあるもののひとつで、個人的にもナンバー・ワンの曲のひとつ。グイグイと力強くひっぱっていくファンキーなリズム隊(Ron Selico (ds)、Shuggy Otis (b))にのって、摩訶不思議なメロディーがかなでられます。ギター以外のメロディー楽器をすべてイアン・アンダーウッドがこなしており、まさに縦横無尽の活躍。サックスによるメイン・メロディーが爽快!

ロング・インプロヴィゼーションをフィーチャーした2曲、tr2「Willie The Pimp」とtr5「Gumbo Variation」は両方とも聴き応え十二分。まず前者は、キャプテン・ビーフハートのうなりではじまるブルージーなワンコード・ナンバー。淡々とした独特なザッパのギターを、展開せずひたすらうねりまくるリズムのなかで聴くうちにトリップしてきます。爆音で聴くことをおすすめします。濃厚。対して「Gumbo Variation」の方は、イアンのサックスで始まるファンキーなナンバー。サックスがひとしきりブロウしたあとにわきあがってくるのは、ドン・シュガーケイン・ハリスによるエレクトリック・ヴァイオリンのインプロヴィゼーション。これはほんとスゴイ。まさに炎をふきあげるかのように、ブルージーなヴァイオリンがうなりをあげます。続くザッパのギターソロもかすむほど。全部通して16分におよぶファンキーでブルージーな即興大会です。

ちなみに、ザッパの作品は、たいてい(「Uncle Meat」もそうなんですが)アナログのほうがCDより音が良いのですが、この「Hot Rats」はCDの音質がすばらしい。非常にクリアーで深みがあります(若干ドラムがひっこみすぎているきらいはありますが)。アナログ盤の音もすてがたいのですが、名盤がCD化されてなおかつ満足できる音なのはとてもうれしいことですね。てゆーか、ザッパのCDは、マスタリングにかなり当たりはずれがあるので、この「当たり」には一安心という感じです。

ちなみに、ジャケが素晴しすぎる。 (9/16/02)