We're Only In It For The Money ★★★★★

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The Mothers Of Invention / We're Only In It For The Money

::★★★★★::1968a::Verve::pop::rock::
iTMS US

(zappa catalog #3: ジャケット左から、ロイ・エストラーダ(b,vo)、ドン・プレストン(key)、ジミー・カール・ブラック(dr,vo)、イアン・アウンダーウッド(woodwinds,key)。残りのメンバーは裏ジャケに)

初期ザッパの最高傑作との声が高い作品。前作「Lumpy Gravy」(実はザッパは「Lumpy Gravy」を後に出したかったらしいが)とコンセプト的に対となる作品らしいのですが、確かに似た感覚のアルバムかもしれません。ただ、具体的にはかなり違っていて、前作がA面1曲B面1曲と、ポップス的な意味では「曲」の体をなしていない完全なコラージュ作品だったのに対して、本作は20曲以上もの短い「曲」がつめこまれていて、しかもそのほとんどがボーカル入りの普通の「曲」で構成されています。しかし、さまざまなタイプの短い曲がノンストップでつぎからつぎへと現れては消えるその様は、まるでコラージュであり、前作と正反対の方法論がとられているにもかかわらず、360度まわって同じような音楽的帰結につながっているといえます。

有名な話ですが、このアルバムの内ジャケット(一部のCDでは表ジャケになっている。しかしそのバージョンは買ってはいけない!)はビートルズの「サージェント・ペパーズ」のパロディーとなっており、そして表ジャケは女装したマザーズの面々、で、タイトルが「おれたちは金のためにやっているだけだ」。つまり、ヒッピーの平和思想とか「崇高」な理想主義的理念を根本から馬鹿にしているわけですね。徹底して個人主義者であるザッパは集団規範ということに対して、生涯を通して批判的でありました。ザッパからみれば、それはいかに反体制をきどっていても、自分が属する団体の価値観や規律に無批判であるなら「体制迎合主義」の一種にすぎなかったのです。だから彼は本質をみうしなったヒッピームーブメントは思考停止にしかうつらなかったし、「カリスマ」という概念も馬鹿げたことだと考えていた(ザッパはジム・モリソンを揶揄する歌詞を含む曲もつくっている)。楽観的フラワー主義とカリスマ性という両方の要素をもっていた当時のビートルズはかっこうの批判の対象だったわけです。(ちなみにザッパはビートルズを認めてなかったというわけでもなく、事実のちにジョン・レノンと共演したりしています。)

ただ、このアルバムの歌詞を読むと、確かに「Flower power sucks!」(フラワーパワー糞くらえ!)みたいな直接的歌詞もあるものの、「ヒッピー批判」などという単純なキーワードではとらえられないことがわかります。どちらかといえばこのアルバムで描かれているのは、社会から排斥されがちな「異なるもの」への愛と、異なるものを排斥し踏みにじる管理社会が導く未来像の不気味さです。ちなみに後者のテーマにしぼった曲の最たるものは、ラストにおさめられた「The Chrome-Plated Megaphone Of Destiny」で、カフカの「流刑地にて」をモチーフにしたこの抽象楽曲は、極度な管理社会下における強制収容所の恐怖を描いています。ザッパの現代音楽へのアプローチの曲で構成がかっちりした最初の楽曲という意味でも重要。

最後に注記。このアルバムは最初にCD化されたとき、ベースとドラムが80年代のザッパバンドのリズム隊(スコット・テュニスとチャド・ワッカーマン)の演奏にさしかえられて発売されました。これは、編集に編集をかさねて悪化したマスターテープの音質を補填する意味合いと、アルバムのリズムセクションの演奏自体に不満をもっていたザッパが「より演奏のうまい」リズムセクションに変えたかったがためにザッパ自身の意志で演奏のすりかえが行われたのです。が! 全体の演奏が60年代の音なのにリズムセクションだけ80年代の分離の良い音で、まったく合っておらず、ファンの間でも批判的な声が大きかったです。当時オリジナルを知らなかったぼくでも「なんじゃこれは」と思ったぐらい合っていなかった。のちにめでたくオリジナルの演奏でCD化されましたが、やはりどう考えてもオリジナルの方が良い。確かに前後のアルバムと比べても妙にしょぼい感じの演奏なのだが(セカンドアルバムのタイトな演奏はいずこ?)、そのしょぼさがいいんだな。現在流通しているのはまず後者のオリジナルバージョンだと思いますが、前者をつかまないように注意してください。前者はけっこうすでに希少かもしれないのですが。見分け方は、「Lumpy Gravy」とのカップリングになっていて、表ジャケが中ジャケのサージェントペパーズのパロディ写真になっているのが問題の「演奏さしかえ」バージョンです。 (9/14/02)