Freak Out! ★★★★

Freak Out

The Mothers Of Invention / Freak Out!

::★★★★::1966::Verve::pop::rock::
iTMS US

(zappa catalogue #1: ジャケット左から、優等生的風貌でなんとなく浮いているエリオット・イングバー(g)、ザッパ(g,vo)、ジミー・カール・ブラック(dr,vo)、レイ・コリンズ(vo)、ロイ・エストラーダ(b,vo))

ザッパの記念すべきデビュー作はLP2枚組という形ででました。デビューに力をかしたのは、トム・ウィルソン。この黒人プロデューサーは前年ボブ・ディランの「Highway 61 Revisited」をプロデュースし、ザッパの本デビュー作をプロデュースしたあと、翌年のヴェルヴェット・アンダグラウンドのデビュー(ちなみにザッパと同じVerveからのデビュー)にも一枚かんでいるということで、この時代の最重要裏方さんのひとりといえるでしょうね。

という無駄口はともかく、このアルバムはいろんな意味で歴史的な作品である、ということは誰しも認めるところでしょう。デビュー作で2枚組というのもすごけりゃ、C面2曲、D面1曲、しかもノイズ・ロックというのも当時はすごかった(はず)。いや、このC面D面は今聴いてもかっこいい。対するA面B面は、ふつ〜のバブルガムR&Bが、どこかねじのはずれたようなサイケデリアとともに演奏されており、このあたりのギャップも人を食っているというか、当時のリスナーの困惑する顔が目に浮かびます。というか、予備知識なくこのデビュー作を聴いて、このマザーズというのが何をめざしたバンドなのか、理解するのはほとんど不可能でしょう。

しかし一方、ザッパ史的に、レトロスペクティブに考えれば、これほどザッパのエッセンスがはっきりと出ている作品も珍しいでしょう。このアルバムはファーストアルバムという意味で記念すべきものであるのと同時に、「R&B、ドゥーワップ」と「実験現代音楽」というザッパの2大ルーツが荒削りな形ながらも明確にあらわれているという点でも見のがせない作品であるのです。ザッパはこのデビューの時点ですでに25歳であり、比較的遅咲きデビューでありましたが、そのせいかどうか、音楽的にはすでにひな形が完成されていたといえるでしょう。

ただ、個人的な趣味を言えば、このアルバムは少々音が悪くてあまり好みではないっす。また、バブルガムR&B系の曲もマジメさと不マジメさのバランスが微妙で、個人的にはとっつきにくい。ので、あまり愛聴はしませんでした。また、前衛面とポップな面が乖離しており、アイデアのまとまりという意味で課題が残る作品です。もっとも、パンタの頭脳警察のモチーフとなった「Who Are The Brain Police」というサイケデリックな名曲や、煙るようなギターリフの反復がドラッギーなブルース「Trouble Everyday」といった重要曲の存在は無視できないところです。「Trouble Everyday」はのちにザッパ自身が何度も再演していますが、このオリジナルスタジオバージョンが圧倒的に一番素晴らしい。

ちなみに「Freak Out!」というと最近のスラングでは「激怒する」という意味で使われますが、当時はおそらくそんな意味はまだ一般的ではなく、ザッパの造語的として使われています。アルバムのザッパ自身の説明によれば、既成の社会の価値観からの逸脱としての突然変異を、個人レベルで達成することを指すらしいです。つまり、Freakはもとの意味の「奇形」という意味であり、ポジティブな意味でのFreakとして自己表出をするのがFreak Outということになります。ちなみに「個人レベルで」というのがポイントであり、集団規範のようになってしまったヒッピームーブメントへの批判がこめられています。ヒッピー/フラワー文化への批判は「We're Only In It For The Money」でさらに顕著になります。

ロック史上でも重要な作品であり、AMGでも★★★★★満点がついてますが、個人的思いいれは→★★★★ (9/14/02)