フランク・ザッパ:ルース・アンダーウッド期について(→<a href="/ghostlawns/searchdiary?word=%2a%5bZappa%2c%20Frank%20%2f%20intro%5d" >Zappa Top</a>)

Frank Zappa: (4) The Ruth Underwood Era

ルース・アンダーウッド期

(1973-1975 by the album release years)

【究極のアンサンブル】


ロック色のつよかったタートル・マザーズ、ジャズ色の強いグランド・ワズー期を経た次なるザッパの志向は、再びロック回帰という方向をとりました。

最初は、ジャン・リュック・ポンティ(vl)、ジョージ・デューク(key)、ルース・アンダーウッド(perc)といった強力なメンツのもと、当初はインスト・ジャズ・ロック路線をさらに押し進めようとしたようなのですが、スタジオ・アルバムを製作する段階で路線変更した模様。この時期最初に出た「Over-Nite Sensation」は全曲ボーカルものロック、しかもほとんどをザッパ自身がリードボーカルをとった作品で、インストは一曲も入ってませんでした。このアルバムはザッパとしてはヒットし、アメリカでは最も人気の高いアルバムの一つとなっています。

で、ロックっぽい一方で、黒っぽいブルージーさとファンクネスもむんむん漂っているのがこの時期の初期の特徴。表立って大々的にファンクとかソウルとかをとりいれたわけではないのですが、雰囲気が不思議と黒いのです。で、ザッパ&マザーズはしばしばジョージ・クリントン&Pファンクと比較されたりするのですが、両者がもっとも雰囲気が似ていたのがこのころだったと言えるでしょうね。どことなくファンカデリックに雰囲気が似ているのです(ザッパ&マザーズはそれほどファンク色は強くなく、ブルーズロック寄りですが)。雰囲気が似てるのにはいくつかの具体的な理由があって、

  • まず、「指令官とバンド」という構図が似ている
  • デッドな(悪くいえばショボい)音の感触が似ている
  • 「こいつがリードヴォーカル、残りはバックバンド」という特定の図式がない
  • 低い声からすっとんきょうな女声コーラスまで、コミカルともいえるヴォーカル・アレンジが特徴

最後のヴォーカル・アレンジに関しては、ジョージ・クリントンもザッパもドゥワップをルーツに持っているということが関係しているかも知れません。そうそう、このアルバムの女声コーラスは、契約の関係でクレジットこそないものの、ティナ・ターナー&アイケッツなのです。たまたまスタジオが同じだったことで実現した共演ですが、彼女たちのカン高いヴォーカルがザッパ特有のヘンなコーラス・ラインをなぞると、それはまるでパーレット(Pファンクの女性コーラス隊)。おもしろいところです。

さて、このように、ファンキーなブルーズ・ロックで始まったルース期マザーズですが、しかし、その後しだいに(具体的にはこの時期の3枚目「Roxy And Elsewhere」から)、超絶技巧指向へと向かいます。それは、チェスター・トンプソン(dr)とルース・アンダーウッド(マリンバ)という「黄金のパーカッション・コンビ」という形が固定されて加速されます。不在だったリードヴォーカリストの座にナポレオン・マーフィー・ブロック(vo)がすわったこともザッパを「歌い手」から解放し、究極のアンサンブルへの希求を可能にしたとも考えられるでしょう。そう、この時期は、ストレートな音楽性にはじまり、究極のアンサンブルへととぎすまされていく求道の過程なのです。しかし、技巧指向といっても、ジョージ・デュークの存在のせいか、アーバン・ジャズっぽい雰囲気を増していくのもこの時期の特徴です。

とにかく、どのアルバムも高密度。充実した時期です。

ちなみにこの時期を「ルース・アンダーウッド期」と名付けたのは、この時期の究極のアンサンブルをある意味象徴するのが彼女のマリンバの音だと考えられるからです(ちなみにルースは、60年代マザーズで重要な役割をはたしたキーボード&木管奏者のイアン・アンダーウッドの奥さん)。実際、この「ルース期」のマザーズは、ルースがグループを離れることを決めて、他のメンバーが「ルースが辞めるなら終わりにしよう」と言って、消滅が決定したそうなので、その意味でも「ルース期」と言うのはあながち間違ってないように思います。ザッパは末期にも「Ruth Is Sleeping」という現代音楽のピアノ曲を作曲してますし、愛すべきメンバーだったのでしょうね。

【おもなメンバー】


この時期は、前期はメンバーが流動的で、後期になるにつれて固定していきます。ルース・アンダーウッドが全作に参加している他では、タートル・マザーズからの付き合いのジョージ・デューク(key,vo)がアレンジなどの面でザッパの右腕的存在でした。

  • ドラム‥‥この時期の初期はラルフ・ハンフリー(Ralph Humphrey: #17, 18, 19)が中心に演奏していたようですが、ジム・ゴードン(Jim Gordon: #18)の名前もみえます。ラルフはテクニックもあり、後期に活躍したチェスター・トンプソン(Chester Thompson: #19以降)をロックよりにしたような、シャープでファンキーな非常に良いドラマーです。ぼくのフェイバリット・ドラマーのひとり。のち、ラルフ・ハンフリー&チェスター・トンプソンのツイン・ドラムの時期を経て、チェスターひとりになります。チェスターはジャズ/フュージョン畑のドラマーで、軽めの音ながら流れるようなスムーズなスティックさばきが芸術的で、個人的にはザッパのドラマーでは一番好きです。彼はのち、ウェザー・リポートを経て、ジェネシスのツアー・ドラマーになってます。
  • ベース‥‥この時期のベーシストはトム・ファウラー(Tom Fowler: 全作)で、このひとはピック弾きの力強いベーシストで、しかも非常にファンキー。ザッパバンド屈指の良いベーシストです。「アポストロフィ」(#18)ではタイトル曲でジャック・ブルースJack Bruce、元クリーム)が参加していて、もう、ジャック・ブルース節丸出しのぶりぶりのベースを聴かせてくれます。
  • キーボード‥‥上述のとおり、ジョージ・デューク(George Duke: 全作)。この時期の音楽面の要でした。ジョージはこの時期に当時新しいテクノロジーだったシンセサイザーを学んだということです。
  • ヴォーカル‥‥まず、最初の二枚のアルバムでは、リード・ヴォーカリストを雇わないで、ザッパが主にリード・ヴォーカルをとる態勢をとってます。そのため、ヴォーカルという点ではすこしインパクトが弱くなってしまった嫌いはありますが、ザッパの低くうごめくようなヴォーカルも独特の個性があって良いです。いつになく実直に歌っているのがカワイイという気も。わはは。その後、ナポレオン・マーフィー・ブロックNapoleon Murphy Brock: #18以降)という強力な人材を得たので、この点も強化されました。このひとは、破天荒なロックっぽさをもちつつも、同時に強力な黒さを漂わせる黒人ヴォーカリストで、歴代ヴォーカリストでももっとも良い人材だったのではないかと個人的には思ってます。ドラッグ問題であまり長居しなかったのが残念(ザッパはクスリ関係に厳しい・・クスリをやると演奏に支障をきたすので)。ジョージ・デュークのヴォーカル面での貢献も忘れられません。
  • ホーン‥‥ホーンでは、トム・ファウラーの兄弟のブルース・ファウラー(Bruce Fowler: #17, 18, 19)とウォルト・ファウラー(Walt Fowler: #19)が主力選手として参加してます。最初の2作にはジャズ期の居残り、サル・マルケス(Sal Marquez: #17, 18)も参加してますね。
  • パーカッション‥‥「アンクル・ミート」にも参加していた経緯があるルース・アンダーウッド(Ruth Underwood: 全作)の存在なしにこの時期のマザーズは語れません。ハイ。ザッパにもとても気にいられていたようで、ザッパの遺作「イエロー・シャーク」にも「Ruth Is Sleeping」という、ツアー時のルースをモチーフにした曲があるくらいです。
  • その他‥‥「ホット・ラッツ」にもちょこっと参加していたジャン・リュック・ポンティ (vl)(Jean-Luc Ponty: #17, 18)が最初の二枚に参加してます。ルース期最後のアルバム「ワン・サイズ・フィッツ・オール」にはジョニー・ギター・ワトソン (vo)(Johnny "Guitar" Watson: #20)が一曲歌って、印象的な仕事をしているほかに、キャプテン・ビーフハートCaptain Beefheart aka Don Van Vliet, ここではBloodshot Rollin' Redという変名: #20)がハープを吹いてる曲があります。

(初稿:10/26/1996、最終改訂:4/20/2003)