Sheik Yerbouti ★★★★★

Sheik Yerbouti

Frank Zappa / Sheik Yerbouti

::★★★★★::1979::Rykodisc::pop::rock::

(zappa catalog #26)

ワーナーが無断でアルバムを垂れ流しているころ、ザッパは態勢をたてなおして独自のバンドを組み、自力でツアーに出、それを映画にとり、自分のレーベルを立ち上げ、百万倍パワーアップして戻ってきました。その成果が! この「Sheik Yerbouti」であります(タイトルは、KC & The Sunshine Band の76年のナンバーワン・ディスコ・ヒット「Shake Your Booty」をもじったタイトル。内容的には関係ないけど)。まちがいなくザッパの最高傑作のひとつだと思う。

基本的にはライヴ盤なんだけど、非常に多くのオーヴァーダブをほどこしてあって、ライヴ盤なんだかスタジオ盤なんだか、ええいオモロかったらどっちでもいいや!って感じのアルバム。メンバーは、テリー・ボジオ(ds)とパトリック・オハーン(b)をのこして総替え。ホーンがいなくなりましたが、キーボード2人体勢(トミー・マーズ、ピーター・ウルフ)になり、バンドの音に厚みをもたらしたので問題なし。特にマーズはブラスシンセの名手だし。また、無名だが才能あるミュージシャンをあつめた結果、寄せ集めスタジオ・ミュージシャンのバンド(「In New York」のころの)にはなかった一体感が戻ってきました。非常にタイトでスピード感あふれた演奏が次々にくりひろげられます。「Laether」を知らなかったぼくには、ここでの、曲と曲を変態的ジングル(?)で次々とつなげる手法はとても新鮮だったし、また、ここまでやるかというほどのオーバーダブも、非常に気色悪良い(註:気持ち悪さが良いということ)。

それはたとえば冒頭のtr1「I Have Been In You」で顕著。オールドR&B調の曲ですが、ただでさえ低くてイヤラしいザッパのヴォーカルが何重にもオーバーダブされて、そりゃもう、スゴいイヤラしさですよ。そのうえ、星屑きらめくようなエクスタシー的ヴォーカルやスペーシーなキーボードがかけめぐったり。ピーター・フランプトンの「I'm In You」という曲をおちょくった曲なんですが、ここまで徹底すると元ネタなんてどうでもよくなります。

で、ノンストップで、ボジオのファンキーでタイトなドラムが印象深いtr2「Flakes」につながるのですが、これがまた、猥雑でポップな万華鏡のような名曲。エイドリアン・ブリューボブ・ディランのモノマネに続いて爆発するはトミー・マーズの高揚感あふれるブラス・シンセ。彼の独特のプレイはこの時期のザッパ・バンドの個性でした。そしてザッパのヴォーカルのヴォーカルにのって、トイレ爆発してタンポンとびかう猥雑でメロウでどこか美しいエンディングへ。

間髪いれずにハードなギター、ボジオが「おい、おまえ、自分が誰だかわかってるか? おまえはケツの穴だよ、ケツの穴!!」とシャウトするtr3「Broken Hearts Are For Assholes」へ。ラモーンズのような「1、2、3、4!」というカウントではじまるtr4「I'm So Cute」は、70年代ハードロックをパンクにしたような曲。ボジオが「おれってなんてキュート、醜いヤツらは顔に硫酸あびて死ね!!」と絶叫。いやー、笑えます。このA面の意味のないパワーはすごすぎ。

このアルバムには、醜男は死ねと叫ぶナルシスト、アゴをのばすのに必死な男、フェミニストにタマをつぶされてゲイに転向するプレイボーイなど、変人が次から次へと歌詞の中に登場。もうめちゃ猥雑な世界です。まさにザッパワールド極まれり、って感じ。

そうそうあと、ロック、オペラからラテンまでぶちこまれたtr17「Wild Love」は、18歳のときのぼくに「形にとらわれるな、音楽はもっと楽しいもんなんだぜ」ということを教えてくれた曲(註:リアルタイムじゃないですよ。歳を計算しないよーに)。マザコンをコケにしたラストtr18「Yo Mama」はなぜかギターソロが壮大でため息がでるほど美しい。感動的な幕切れの傑作アルバム。

ちなみにもともとは二枚組LPとして発売されまして、tr1-4がA面、tr5-11がB面、tr12-16がC面、tr17,18がD面収録です。問題は、このアルバムのCDの音が悪いことです。これはほんと、許せん。1986年からEMIから出たCDは大丈夫らしい(ここ参照)のですが、他はダメ。どうにかしてほしいす。 (10/28/06)


[追記 11/12/06]音質について「そんなに悪いんですか?」というコメントをいただきまして、自分の書いたことに少々自信がなくなりました。というのも、上記の原稿は、日付こそ「10/28/06」とありますが、それは最終編集日であって、原稿の大部分を書いたのは10年前ぐらいのこと。CD音悪いからということでCDは封印してiTunesにも入れてませんでしたのでCDも聴いてなかった。ということで、今回超ひさびさにCDを聴き直してみたんですが、いかんせん現在アナログプレイヤーがない環境なんでLP盤を最後に聞いたのはそれこそ15年ぐらい前のこと。「こんなもんと言われればこんなもんかな…」と言いたい気持ちにもなっていきました。

しかし、そんなテキトーなことではいかんと、このたび唯一音がまともだとされるEMI盤をヤフオクでゲットしました。ラッキー! 聴いてみましたが、やはりかなり音が違いますね。一言でいえばEMI盤(LP盤をほぼ同音質だと言われています)は音がクリスピー。一方、Ryco盤(だけでなくおそらくEMI盤以外のCDすべて)は低音が強調されています。ですから音がズーンと来るのはRyco盤の方です。しかし、Ryco盤は低音が強調されるだけなら良いのですが、その代償として、高音部が思いっきり奥に引っ込んでいます。それゆえ、シンバルやハイハットの鳴りが足りず、音にメリハリがなくなっている。おそらく全体にコンプレッサーをかけたのでしょう、音像も不安定です。音が強く出過ぎたりしているのを押さえ込んで音の粒を揃えるのがコンプレッサーの役割ですから(って、コンプレッサーかけているって決めつけてますが)、逆にいえば、ダイナミックレンジを広げるように音がガーンと出てくるところで逆に音が押さえ込まれて、不安定な音像になってしまう。ダイナミックレンジが狭い音楽にコンプレッサーは有効ですが(たとえばデスメタルとかはけっこうコンプレッサーがかかっている場合が多いように思います)、ザッパのようなダイナミックレンジが広い音楽には不向きでは。って、コンプレッサーのせいだという証拠はないんですけど。

参考までに、音の差が大きいと思った「I'm So Cute」「Wild Love」のEMIバージョンの方をこっそり掲載してみます。以下のアドレスの末尾に「.zip」をつければダウンロードできるはず。AACです。

spacehorn.com/jeepster/1

「I'm So Cute」ではEMI盤の方がドラム(特にハイハット)が前面に出ています。「Wild Love」ではコーラスの立体感が違う。

なお、Tinsel Town RebellionとYou Are What You Isにもまったく同じ問題があったのですが、1998年に密かにリマスターされて音が良くなっているようです。ただし、残念ながら新しいリマスターか古いものかはジャケや盤を見ただけでは判断できないようで、購入するのは賭けになるようですが…。