Kish Kash ★★★★

Kish Kash

Basement Jaxx / Kish Kash

::★★★★::2003::Astralwerks::pop::club::house::funk::
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ブリティッシュだけどひたすらアメリカンにイケイケな2人組、ベースメント・ジャックスは、「アルバムを製作できるクラブ音楽クリエイター」としてはここ5年ではまさに最高峰を行くユニットで、彼らに匹敵する才能といえばダフト・パンクぐらいでしょうか。デビュー作「Remedy」(1999)、2作目「Rooty」(2001)と、「ポップ音楽としてのクラブ音楽」としてまったく非のうちどころのない作品を連発して音楽ファンの度肝を抜いたベースメント・ジャックスですが、彼らの良いところは、非常に知的で才気走っていながら、同時にバリバリの肉体派、イケイケ派を突き進んでいるところでしょう。両者を両立させるのは難しいわけで、それを軽々とやってみせるところが彼らが高い評価を受けつづける所以でありましょう。

で、そんな彼らの新作(といっても2003年作品です‥リビューを書くのが遅くてすんまへん)がこの「Kish Kash」ですが‥うーーーん、ちょっと微妙かなあ。「凡作」と言ってしまうにはあまりにもったいないですが、どうもいつもの絶妙なバランス感覚に欠けている気がします。てゆうか、ミシェル・ンデゲオチェロtr2とtr14)、スージー・スー(tr10)、NシンクのJC Chasez(tr7)など、畑違いのスター・ゲストを迎えているというところにイヤな予感はしていたんですよね。だいたいクラブ系クリエイターが異種ゲスト・スターを迎えるときってクリエイティビティーの枯渇の前兆だったりして、だいたいあまり良い結果にはつながらない。

そんな危惧とは裏腹に、この作品での前述した三者が参加した曲は、幸い悪いものとはなってない。てゆうか、むしろこいつらが参加した曲がハイライト。これまで散見されていたベースメント・ジャックスのプリンスへの傾倒が爆発しまくったtr2「Right Here's The Spot」(ミシェル・ンデゲオチェロ vo)は強烈だし、これまたプリンス系っぽい芸風とイケイケ馬鹿テクノが合体したようなtr7「Plug It In」(JC Chasez vo)も良い。しかしなんといっても白眉は、異種格闘技となったスージー・スー(ゴス系パンク・ニューウェーブのオリジネーターの一つ、スージー&ザ・バンシーズのボーカル)がボーカルを取ったtr10「Cish Cash」。これはベースメント・ジャックスでは異例なほどロックっぽい曲だけど、ゴスとパンクとベースメント・ジャックスが合体したらこうなるんだ!としか言いようのない個性があって、しかもカッコよく、ダークホース的にアルバムのベスト・トラックと相なりました。

なんか褒めてばっかりですが、それでも、全体的にはどうも問題ありなんですよ、このアルバム。問題を一言でいえば、とっちらかりすぎ。いつも「バラエティー豊か」と「散漫」のあやういラインを見事に切り抜けてきたジャックスですが、このアルバムは少々「散漫」寄りにふらついてる。これは一つにはやはり個性豊かな異種スターを呼んでしまったためにいつもの美しいバランス感覚が崩れざるを得なかったということがあるでしょう。また、その延長として、曲の出来にバラツキがみられる。「捨て曲」という概念はジャックスには存在しなかったのに! 今回は、たとえば、tr6「Supersonic」とか、馬鹿っぽすぎ。ほとんどふざけてるのかと思うほどに。「馬鹿っぽい」と思うことがあっても決して「馬鹿っぽすぎ」とは思わせることがなかったジャックスだけに、これは後退と言わざるを得ない。tr13「Living Room」も、やりすぎ。ふざけすぎ。tr11「Tonight」はふざけてないけど、魅力に欠ける。いつもならもっと輝いてもおかしくない、いつものエレガントなベースメント・ジャックス節tr12「Hot 'N Cold」も、アルバム全体がゴチャゴチャしすぎてるので、どうもしっくりなじまない。冒頭のtr1「Good Luck」も良い曲なんだけど、前作のtr1「Romeo」とあまりに同路線すぎて、これもマイナス印象。あ、でも、インドを大幅に取り入れた馬鹿ソングtr4「Lucky Star」はかなりカッコ良いかも。

というわけで、実に微妙なアルバム。うーん、自分のお気にいり度が★★★なのか★★★★なのか、真剣に悩む。アルバム全体でいえば、嫌いな曲がいくつもあるので★★★。しかし、tr2、tr4、tr7、tr10の4曲は超好きで、傑作だった前作のどの曲にも勝っていると思います。やっぱり★★★★か。次のアルバムに期待。 (2/20/05)