Lisa Stansfield ★★★★

Lisa Stansfield

Lisa Stansfield / Lisa Stansfield

::★★★★::1997::Arista::pop::club::
iTS US / iTS JP(→iTSについて

リサ・スタンスフィールドは、ソロ・シンガーだけれども、ダンナのマルチ・プレイヤー、イアン・デヴァニーに全面的に作曲からサウンド・プロダクションまでバック・アップされていて、その意味、ソロというより一定のユニットと言ったほうがいいかもしれない。ブレーンがしっかりついていることによって、曲や方向性に安定したクォリティーを維持できるというメリットが生まれる反面、一旦時代からズレると方向転換しにくいというデメリットもあって難しいところ。たとえば吉田美和子がアメリカ進出を企てたとき、アメリカ向けのサウンド・プロダクションをする能力がない中村某と必然的に組まなければならなかったことを考えると、ブレーンが固定していることの難しさを考えさせられます。

しかし、全般的に、スタンスフィールドのブレーンであるデヴァニーはよく頑張っているといえるでしょう。少なくとも、デビュー作と本作という二作の、ブルーアイド・ソウルの佳作を生みだしているから。デビュー作のリビューでも書いたけど、デヴァニーはサウンド・プロダクションという意味ではまったくオリジナリティーがない。だから、「いかにその時代のサウンドの最低ラインを器用にクリアするか」がポイントとなる。このアルバムはその意味、そつがなく、良い出来。ここをクリアできれば、スタンスフィールド&デヴァニー・コンビの強みである「楽曲のよさ」と「70年代テイストの新解釈」と「良い歌」がきちんと生きるんだよね。たとえば、コンテンポラリーR&Bっぽいバラードtr3「I'm Leavin'」はとても情感があってヘタなアメリカの若手黒人シンガーよりずっと良い。バラードでは、もうちょっとクワイエット・ストーム系のtr10「I Cried My Last Tear Last Night」、 tr11「Honest」、 tr12「Somewhere In Time」の三連発も強力。かならずしも現代的というわけでもないけど、ファンクナンバーのtr7「The Line」も実に良い。

また、このアルバムのひとつのポイントは、かつてから指摘されていたバリー・ホワイトへの傾倒を、ホワイトの「Never, Never Gonna Give You Up」のカバーで宣言しているところでしょうか。シングルカットされてヒットしたこの曲は、オリジナルとほとんど同じアレンジで、新しい要素はないものの、ホワイトへの敬愛が感じられて良い感じ。で、アルバム自体はこの曲におんぶすることなく、「スタンスフィールド流バリー・ホワイト・ワールド」を現代の音で、そしてオリジナルの曲でくりひろげることに成功していて、とても良いです。その他でも、冒頭のtr1「Never Gonna Fall」やtr8「The Very Thought Of You」も、「Never, Never Gonna Give You Up」に負けず劣らずバリー・ホワイトな曲です。ブルー・アイド・ソウルなのに、そして女性なのに、それなのにバリー・ホワイトの濃い世界を継承しているというアンバランスさがスタンスフィールドの魅力なんですよね。好盤。

文句があるとすれば少々曲が多すぎ。あと、ボーナストラックの、スタンスフィールドの出世作「People Hold On」のリミックスは超つまんね。 (8/23/04)

[追記1/3/07]iTS JPのはジャケが違うけれども、同じアルバム。ただ、ボーナストラックの選曲が違います(曲数だけでいえば増えています)。