股旅 ★★★★

股旅

奥田民生 / 股旅

::★★★★::1998::Epic::pop::rock::jp::
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奥田民生‥って詳しく知っているわけじゃないんだけど、好きな日本人ミュージシャンの一人。好感を持っています。70年代の王道洋楽ポップ/ロックの素養とあからさまなオマージュおよびパクリをもってして、非常にバタくさい(ってこんな表現今どきつかわんか‥西欧っぽいということです)音楽を創る人なのに、同時にすごく自然に「日本の音楽」を達成してるんだよね。もちろん、歌詞にバカげた横文字を使わないという表層的なレベルでも大和魂を感じるけど、もっと深いところで「日本のロック」を感じます。うまくいえないけど。音楽はまぎれもなく西洋のモノなんですが、そのプレゼンテーションの仕方が、非常に和風なんですよね。それは、たとえばビジュアル系が洋風をきどりつつ畳文化を少しも抜けていないという滑稽さとはまったく違う次元。地に足のついた日本魂。日本にいて、日本の言葉でしかできない表現をきちんとやっている。西洋人にはこの良さはわかるめぇ。そんな優越感を感じさせてくれるのが、日本人ミュージシャンとしての奥田民生の素晴らしさだと思うのです。あもちろん、音楽的に非常に洗練されているという前提があって。そういうバランスはある意味大滝詠一に近いかもしれない。けど、奥田の場合は、より肉体的というか、ボーカルやそのギター一本さらしに巻いて的なスタンスが力強いんよね。

しかしですね、一方では同時に、奥田民生の音楽に今一歩のめりこみきれないぼくもいます。うーん、どうしてだろ。奥田って、人をはぐらかすのに命をかけているところがあると思うのですが、その微妙なはぐらかし加減がもうひとつ肌にあわないのかもしれません。それでもユニコーン時代にくらべれば、今はずいぶんとストレートになりました。ぼくが奥田の音楽にのめりこみきれないもうひとつの理由は…やっぱりサウンドかなぁ。なんというか、悪い意味で日本のロック的な、録音のパンチのなさ…。音がくぐもってる。ドラムの音がへなへな。ギターの音もなんとなく湿気てる。このアルバムでもまったく同じ不満があります。密閉容器にしまいわすれたせんべいみたいな録音。うーん、わざとなのかなぁ。それともぼくの耳がアメリカのメリハリのある音に慣れすぎているのかなぁ。でもやっぱり、tr9「手紙」のような、ハードな曲でこの音はマズいよなぁ。

でもまあ、それも奥田の音楽全体から考えると些細なことでしかないのでしょう。このアルバムのぼくのベストトラックは間違いなく「さすらい」で、もう、奥田の洋楽的メロディセンスの素晴らしさと日本的な情緒が絶妙にまじりあってスパークする名曲なんですが、こういった曲では音の湿気ぐあいがぴったりはまってる気がしてくるから不思議です。 (8/5/04)