On Top Of The World ★★

The It / On Top Of The World

::★★::1990::Black Market::club::house::
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これはすでにわりにレアになっているCDではないかと。ロバート・オウェンズをフィーチャーしたFingers Inc.で80年代に名を挙げ、1992年のアルバムで自らのリードボーカルによるMr. Fingers名義でさらにブレイクした、シカゴ・ハウスのオリジネーターのひとり、ラリー・ハードの、これはちょうどその中間の時期に進行した別プロジェクト、The Itのアルバム。‥長い説明だ。で、このThe Itというプロジェクトは、ハリー・デニス(Harry Dennis)という黒人のストリート詩人をフィーチャーしたアルバムなんですね。基本的には、いつも変わらぬラリー・ハードの音世界のうえに、ボーカルではなく、デニスによる詩の朗読が入ります。

で、感想ですが‥まず、個人的にラリー・ハードの音のファンではないことを前提として書かせていただきます。ハードの音というのは、本当に金太郎飴的で、それは80年代半ばから2000年代まで、それはもう見事に同じ音を貫いているのがすごいし、また、同世代のシカゴハウスのオリジネーターと比べてもひときわ「我が道を行く」音世界であることには、まったくもって感心するばかりなんです。でも、この人の音って、どうしてもニューエイジに聞こえちゃうんですよね‥。そこが苦手。ただ、ハードのどこかひんやりとしたニューエイジ的な音も、ハード自身の、うまくはないけれども壊れそうに繊細なボーカルが乗ると、そこにマジックが生まれるんですよ。だからこそ、ハードのボーカルをフィーチャーしたMr. Fingersの一作目「Introduction」は奇跡的な名盤となったわけです。で、繰り返しになりますが、ハードのボーカルを抜くと、ぼく個人的としてはきついんですよね(注:ラリー・ハードの音のファンと言うのは非常にたくさんいます。ここに書いているのはあくまでぼく個人の感覚です)。

このアルバムは、そりゃもう見事なまでのハードの音世界です。ただやはりハードのボーカルが入ってないし(一部で聴けるけど)、また、ハリー・デニスによる詩の朗読が、今いち心に響かない。社会派の詩で、わりに良い詩ではないかと思うのですが、デニスの声にマジックがないというか‥悪く言えば、アマチュアっぽい雰囲気。というわけで、おもしろいプロジェクトだとは思うし、一般に評価もけっこう高いんですが、ぼく個人としてはどうにも煮えきらなさを感じてしまう作品であります。はい。 (1/23/04)