Sea Change ★★★★

Sea Change

Beck / Sea Change

::★★★★::2002::Geffen::pop::rock::
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ファンキーで馬鹿馬鹿しさ満開だった「Midnight Vultures」に続くベックの3年ぶりの新作はあっと驚くシンガーソングライター的作品。全曲スローかミドルテンポで、アコギ、ピアノ、そしてストリングス(ナイジェル・ゴッドリッチ)がふんだんに入ってます。ベックの個人的な失恋アルバムなんだそう。でも、歌詞は抽象的なものや一般的なものが多くてあまり特定の状況を想起させるものはないような気がします。で、もともと作曲能力に優れた人ですから、悪いわけもありません。一曲目「The Golden Age」からアコギにスティール・ギターと、カントリー・バラード丸出しですが、完全にカントリーというよりはどっちかというとニール・ヤングっぽいかも。続くtr2「Paper Tiger」が本当に素晴しい。シンプルで力強いドラムに、寄せては返すストリングスの波、そして乾いたエレキ・ギター。サウンド的に完璧。相変わらずのセンスの良さです。「60年代末」的サイケデリアが強いですね。tr4「Lonesome Tears」も素晴しい。ベック研究サイト「Almost A Ghost: A Study In Beckology」には、ハンク・ウィリアムズのシンプルな歌詞世界をめざした曲とあり、確かにカントリーバラードの常套である「Lonesome」と「Tears」の二単語を組みあわせただけの曲タイトルからして非常にシンプル、そして、メロディーに泣きの要素が強いという意味でもカントリーバラードっぽいと言えるかもしれません。が、これでもかというストリングスの洪水と、カントリーにしてはあまりにダークなサビの旋律など、イギリスっぽくもあり、おもしろい曲です。そして名曲です。同じくダークなストリングス中心の曲tr8「Round The Bend」も素晴しい。凡庸な曲もいくつか入っているのですが、全体的にはとても美しく、かつ油断ならない「闇」を持っている好アルバム。ベックがインタビューで「良い就寝用の音楽をつくりたかった」と言ってるけど、その通りで、うたたねしながらこのアルバムを聴くとトリップできます。 (9/1/03)