U.S.S.R.: Life From The Other Side ★★★★

U.S.S.R. Life from the Other Side

DJ Vadim / U.S.S.R.: Life From The Other Side

::★★★★::1999::Ninja Tune::hip hop::abstract hip hop::
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ヴァディムのライブって一度観てみたいなと思っていたら、最近来ボストンをしていたらしく、でも見逃した。ちっ。このアルバムは、ロシアンDJ、ヴァディムの実質的2枚目。ぼくは彼のデビューアルバムが大好きなんだけど、このアルバムも悪くない。てゆうか、デビュー作はあまりにアバンギャルドなので非常にとっつきにくいんだけど、この2作目はゲストラッパーを多数迎えて、アブストラクト色をおさえて、正統的ヒップホップの路線を踏襲してます。とはいえ、ヴァディムのことなので、メインストリーム・ヒップホップのようなわけにはいかないんだけど、それでもラップをフィーチャーして構造が単純化することにより、ヴァディムの実験性が分かりやすい形で昇華しているということがあります。ぼくはヒップホップのことは無知なので、ここに参加しているラッパーたちの名前は全然知らないんだけど、ラップ自体もかなり良いです。特に、El-P (Company Flow)をフィーチャーした冒頭の「Viagra」、今の時世には絶対放送禁止の「Terrorist」(Moshun Man)が良いっす。そして、Sarah Jonesによるポエトリー・リーディングをフィーチャーした「Your Revolution」(注)は、ギル・スコットヘロンの「The Revolution Will Not Be Televised」を土台にした独創的なヒップホップ・ナンバーで、素晴しいの一言。地味なんだけど。捨て曲なし。ヴァディムって寡作で、最近どうしてんのかなと思ってたら、新譜出したらしいですね。聴いてみよう。

(注)のちにいろいろ調べてみたら、この「Your Revolution」は放送禁止くらっていた模様。しかも、それをゴールデンタイムにあえて放送したラジオ曲に対して政府の組織であるFCCから7000ドルの罰金が請求される騒ぎがあり、それに対してフェミニストらが一斉に反発、作詞者のサラ・ジョーンズも言論の自由を侵害されたとして逆にFCCに対して訴訟を起こすなどの騒ぎに発展していた模様。DJ Vadim featuring Sarah Jones「Your Revolution」はフェミニズムの歌だったんですね。元のインスピレーションとなったギル・スコットヘロン「The Revolution Will Not Be Televised」(こちらに歌詞が掲載)は、典型的なテレビ文化(コマーシャルなどもふくめて)の常套句などを「革命はXXXXではない」の形で否定辞とともに並べたてるポエトリー・リーディング的な曲だったのですが、サラ・ジョーンズの「Your Revolution」(こちらに歌詞掲載)は、ヒップホップ界のギャングスタ系ラップに蔓延する、女性を性の対象にしか見てないかのような常套表現を、否定辞とともに並べたてる内容なんですよね。つまり、「Your Revolution」とは、ギャングスタ・ラップなどのマッチョな性の価値観なのであり、「Your revolution will not happen between these thighs(あなたの革命は私の腿の間では起きない)」とそれを否定するのが根本的テーゼの曲なわけです。しかし、ギャングスタラップの常套表現をこれでもかと引用している、その表面的な部分のみをFCCが注視し(政府機関らしい見方です)、今回のような混乱が起きたわけですね。しかも、日本人が読むと、どこが露骨なのかパッと見ではわからないような、隠喩の連続なんですが。

とりあえずこの曲はサラ・ジョーンズの朗読の響きとヴァディムのミニマリストなビートの組合わせだけでも非常に魅力的な曲なんですが、背後関係を知るとより興味深いですね。つーか、このアルバム、この曲といい、「I am the terrorist, terrorist, terrorist, terrorist」と連呼される「Terrorist」といい、リアルタイムで意図されたものとは違う意味でヤバくなってしまってる作品であります。 (4/13/03)