Anomie & Bonhomie ★★★

Anomie & Bonhomie

Scritti Politti / Anomie & Bonhomie

::★★★::1999::virgin::pop::rock::
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11年ぶり、4作目のアルバム。グリーン・ガートサイドのこの沈黙の期間の苦悩というのは、なんとなく分かるんですよね‥。スクリッティ・ポリッティが80年代に完成させた音は80年代のどのポップ音楽よりも洗練されて研ぎすまされていたのだけれど、同時に80年代という時代の呪縛からは決して抜けられない音だった。どっからどう聴いても80年代の音だからね。いや、今聴いても超カッコいいのだけれど、この音を90年代にやったら‥やっぱり浮くのは間違いない。90年代というのは、スクリッティ・ポリッティ的なきらびやかさよりも、もっと「生」な感覚が要求される時代だから。で、ガートサイドはもともと黒人音楽が好きな人であるからして、そういった、もっと肉体性のある音に歩み寄るのはやぶさかでなかった。実際、3作目のあとに出したシングルはいずれもレゲエに接近した音だった。しかし問題は、ガートサイドのフェミニンで、どこか仙人じみたボーカルがほとんど「肉体性」と対極にあること。そして、そのガートサイドのボーカルがあまりに80年代のきらびやか系のシンセポップ・サウンドに相性がよかったこと。というか、あのボーカルはきらびやかなスクポリ・サウンド以外の別のサウンドに乗るなんて想像もできないぐらいの特徴的な個性をもっていた。だから誰にも「次の展開」が見えなかった。

で、このアルバムで戻ってきたガートサイドとスクリッティ・ポリッティですが、興味深い内容です。もちろん80年代サウンドとはまったく違うサウンド、そして、80年代とまったく同じガートサイドのボーカル。多くのファンはこの違和感に拒否反応を示しましたが、しかし、非常にうまい転身だと思います。ミシェル・ンデゲオチェロ(b,vo)、ジュジュ・ハウス(ds)、モス・デフ(rap)などを迎え、スクポリの特徴である知的な音世界を維持しつつ、肉体的な音づくりを達成することに成功しています。問題は、ひとつには曲が全体的にかつてほど魅力的じゃないこと。いや、もちろん、たとえば「Umm」のメロディやコード展開は天才的で、スゴいとしか言いようがないし、レゲエの「Mystic Handyman」のすばらしすぎるメロディは本当、感涙ものです。しかし、シングルになった「Tinsel Town to the Boogiedown」なんかは曲としては今いちつまらないし、こういった「今いち」の曲の割合いが少々高い。もうひとつには、サウンド面での実験がたりないこと。いや、ギターロック的な展開と、ンデゲオチェロのベースを核とするファンキーなサウンドが融合されたサウンドは十分オリジナルなものなのですが、斬新というほどでもない。また、意識的にか、90年代のイギリスのクラブサウンドの発展や展開をまったく取りいれていないのも気になるというか、個人的にはそういったところも視野に入れてほしかった。もしかしたらこれは、プロデュースを担当したデイヴィッド・ギャムソンが主にアメリカの黒人音楽寄りの分野で活動していたせいかもしれませんが、しかし、酷なことを言うと、ギャムソンの音のセンスは90年代前半のもので、99年という時代には少々過激さという点で物足りないなという印象を持ちます。

というわけで、次作にぜひ期待したいところ‥ですがまた7年ぐらい沈黙するんだろうなぁ‥。あまり完璧主義にならず、いろんな実験をどんどん発表してほしいんですけどね。 (12/4/02)