Club Classics Vol. 1 ★★★★★

Club Classics

Soul II Soul / Club Classics Vol. 1

::★★★★★::1989::Virgin::club::soul::house::dub::triphop::
iTS US / iTS JP(→iTSについて

ジャジーBのプロジェクト、ソウルIIソウルの伝説的な1枚。ほんま売れたし、影響力もすさまじかった。彼らのビートは「グラウンド・ビート」と呼ばれ、当時のイギリスの音楽界は一時グラウンド・ビート一色になったもんね。残念ながらソウルIIソウルはその後急激に失速、グラウンド・ビート・ブームも嘘のようにあっという間に消滅してしまった。でもそれでいて、このアルバムはやはり輝き続けている。それは内容が良いということもさることながら、このアルバムに現在のイギリスのクラブ音楽、特にトリップホップの原型をはっきり見てとれるから、ということが大きんだよね。何度聴いても発見がある。

イギリスの音楽シーンには脈脈とダブの伝統があって(イギリスにはジャマイカ移民が多いのです。ジャジーBもジャマイカ系)、ソウルIIソウルもあきらかにその上にたっている。そしてそれを、これまたイギリスの伝統であるブルーアイド・ソウルの伝統に融合したのがソウルIIソウルなわけです。つまり、レゲエ/ダブの方法論を土台に、ソウルの歌をのせた。ちなみにソウルIIソウルのシンガーは黒人ばかりなので決して「ブルーアイド」じゃないんですが、アメリカのソウルのような「熱さ」でなく、どこかひんやりとしているところに、ブルーアイドソウルの伝統を感じるんですけどね。それから、このファースト・アルバムにはNYハウスの影響も感じます。最後にもうひとつ、ソウルIIソウルのいわゆる「グラウンド・ビート」というゆったりとしたシャッフル系のリズムは、ワシントンDCの強力ファンク・スタイルであるゴーゴーの影響があります。

とまあ、いろいろルーツを論じることは可能なんですが、しかし、ソウルIIソウルの音楽がマジカルだったのは、とにもかくにも、「おそろしく音数が少なかった」ということにつきるのではないでしょうか。たとえば冒頭の有名な「Keep On Movin'」にそれは典型的です。ひたすらひたすら淡々としたグラウンド・ビートのリズムの上に乗るのは、これまた寡黙なベース、そして静かなピアノ、レゲエ・フィルハーモニック・オーケストラの控え目なストリングスだけなんですよね(+ボーカル)。シンセも電子音もギターもない。音はスカスカ。しかし、その音の隙間が多くを語っているのです。寂寥感が漂っている。「禅かい!」と言われそうですが、そう、禅なんですよ。ダブって(特にイギリスのそれ)は禅に通じる世界がありますが、それを徹底したのがソウルIIソウルなんです。このアルバムが決して色あせないのはそのおかげ。そして、このアルバムがトリップホップを先がけているように思えるのもこの徹底した音数の少なさゆえです。このアルバムにマッシブ・アタックの影を見るのは容易です。もちろん、マッシブ・アタックよりはずっとソウルよりですが。

てゆうか、ソウルIIソウルはネリー・フーパー(プロデューサー。ビヨークのソロ・アルバムを世に出したことで有名。最近ではノー・ダウトなんかもプロデュース)がブレーンだったということも大きいんですけどね。フーパーはマッシブ・アタックの連中と朋友で、ブリストル出身ですから。このソウルIIソウルの卒業生といえば、シンガー、キャロン・ウィーラーがいましたが(今なにしているんだろう‥)、ほかにもクレジットはありませんが、屋敷豪太が参加していて、屋敷もここから羽ばたいていきます。あと、たぶんミシェル・ンデゲオチェロも参加しているっぽいです。というようないろいろな意味で重要な作品。 (11/27/02)