Astrud Gilberto's Finest Hour ★★★★★

Finest Hour

Astrud Gilberto / Astrud Gilberto's Finest Hour

::★★★★★::2001::Verve::Jazz::Brasil::
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アストラッド・ジルベルトというのは、角度美人なんだな、と。いや、ルックスのことではなくて、シンガーとして。うまいシンガーではなく‥というかむしろヘタなんだけど、ときどき、ハマるとものすごく輝くんだよね。つまり、シンガーとして角度美人。その意味で、ベストアルバムというのはとても良いチョイスじゃないかと、今回思いました。アストラッドのアルバムは、「Beach Samba」ぐらいしかまとめて聴いたことがないのですが、それ聴いたときも「なんじゃこの中途ハンパな音楽は」ぐらいにしか思わなかったものです。しかしこのベスト盤はイイ! アストラッドのシンガーとしての「角度美人」な側面が凝縮されていて、マジカルと言ってよいすばらしい内容です。一曲目の「Goodbye Sadness (Tristeza)」、ひんやりとしたアストラッドのスキャットでアルバムが幕をあけるこの瞬間から鳥肌ものです。

ちなみに、ご存知ない方のために説明しますと、アストラッド・ジルベルトは、ボサ・ノーヴァの神!まさに神!といえる素晴しすぎるジョアン・ジルベルトの奥さん(だった?ひと)で、プロのキャリアは全然なかったのに、スタン・ゲッツがジョアンをアメリカに呼んで共演した際、英語の歌をいれたいということで、ジョアンよりは多少は英語ができた奥方のアストラッドに歌わせたのがかの有名な「イパネマの娘」で、そのたどたどしいボーカルが一気にアストラッドをスターにもちあげたんですよね。ということで、基本的にシロートなんですよね。だから、あまりヘタでも責められない。でも、ジョアン・ジルベルトがゲッツに呼ばれた瞬間というのは、いわばボサ・ノーヴァのポピュラー化した瞬間であると同時に真の黄金期の終わりであり、アストラッドの成功というのはそれとオーバーラップしてしまうため、やっぱりどうしてもボサ・ノーヴァ・ピュアリストからは冷たい目でみられがちなんですよね。まあ、ぼくもそういう感じの目で見てましたが。

でも、このアルバムを聴くと、ボサ・ノーヴァどうのということでなく、キッチュなラウンジ系音楽の金字塔として見なければアストラッドの本当の姿は見えてこないのだとよくわかりました。これらのアストラッドの録音が、のちのフレンチ・ポップに与えた影響というのもはかりしれないだろうし、日本のラウンジ系クラブ音楽というのもみなこのあたりが直接のルートなんだな、と。ピチカート・ファイヴのボサ系の曲なんて、アストラッドが60年代にやってたこと縮小再生産だもんね‥と、またピチカート過小評価発言を。ステレオラブのルーツのひとつでもあるよね‥ステレオラブはニコ入っているが‥。

個人的に好きなのは、「Goodbye Sadness」と、ゲッツとのライブ「It Might As Well Be Spring」、あと、「In other words, I love you〜」というところでずっこけるほど音程がハズれるのが逆に良い「Fly Me To The Moon」。アストラッドは、へったくそな英語の発音もポイントでして、やっぱり「アストラッド」と呼ぶべきなのかな。「イパネマ」のアストラッドはやはり絶妙のはじらいというか、素人くささの中に輝きがある。でも、ジョアンと共演する曲はやっぱりジョアンの方がいいな‥。

ということで、ベスト盤オススメ。いくつか種類が出ていて、ぼくは曲数が一番多いのを買ったんだけど‥あら、良くみたら「Dindi」が入ってない‥(′・ω・`) (10/3/02)