Solaris ★★★★★

Solaris

Photek / Solaris

::★★★★★::2000::Astralwerks::club::house::techno::d&b::
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ジャングルが「ドラムンベース」へと変革する時期に重要な役割を果たした孤高の男、リチャード・パークスことフォーテック。近年は、ハードコア化するドラムンベースの潮流に共感できず、ドラムンベースと距離をとっているそうです。そういう意識を反映した本作(アルバムとしては二枚目)はドラムンベースから離れているのですが、では何をやっているのかと思えば、驚くことに、シカゴハウスっぽい音をやっているのです。(狭い意味での)シカゴハウスというのは、ハウス黎明期の80年代半ばの音を差します。このアルバムは、したがって、あからさまにレトロスペクティブだと言えます。今の時代にしては遅めのBPM、シンプルな打ち込みリズム、攻撃的というよりどこかつるっとした感じの電子音ベース。シカゴハウスのベテラン(かつ異色)ボーカリスト、ロバート・オーウェンスが二曲でフィーチャーされているという点を差し引いても十分シカゴハウスっぽい。

しかしですね、それにも関わらず、このアルバムは実に2000年的にモダンな感じがするんですよ。このアルバムは、かなりアンビエント・ハウスっぽいアプローチをとっているのですが、たとえば同じくアンビエント指向のシカゴ・ハウスのオリジネーター、ラリー・ハード(フィンガー Inc、Mr. フィンガーズ)の最近のアルバムが「いつもかわらぬラリー・ハード節=オリジナル・シカゴハウス・サウンド(つまり80年代的)」なのと比べると、似たアプローチであるはずのこのフォーテックのアルバムは、どこか新しい。その原因がどこにあるのかを具体的に指摘するのは難しいんですが、やはり「ドラムンベースを通過した世代だから」ということなんでしょうね。ボーカルにも歌詞にもロバート・オーウェンズ節に満ちていて、サウンド自体もわりにふつうのハウスであるシングル曲「Mine To Give」を聴いても、古さはなく妙に新鮮なのです。そして、具体的にどこが?と言われると、よくわからない。音の空間処理とかのせいかなぁ(最後の数曲はアンビエント・ダブっぽい)。

このアルバムには一曲だけドラムンベースの曲が入っている(「Infinity」)のですがが、正直まったく面白みのない曲で、フォーテックのドラムンベースへの情熱の低さを感じてしまう。逆に、アンビエント・シカゴハウス的「Glamourama」、「Mine To Give」、「Solaris」といった曲が新鮮に輝いている。不思議なアルバムです。 (8/10/01)