マリーザ・モンチについて

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Marisa Monte

genre: brazil/pop/rock

【概観】


以前、音楽に詳しい日系ブラジル人の知り合いに、「マリーザ・モンチはどう?」と聞いたところ、「彼女はポップすぎる」と、あまり良い反応は返ってこなかったをおぼえています。それはなんとなくわかる気がします。マリーザの音楽への接近法は必ずしもブラジルにこだわっていないんですね。別にブラジル人だからといってブラジル音楽のみを聴いているわけもなく、英米のロック・ポップスの影響を聴いてきた自分の自然な姿勢が音楽に反映されているのがマリーザ・モンチの音楽だと思います。もちろん、カエターノ&ジルのトロピカリア・ムーブメントだってそういう「英米ロック・ポップス」との融合が意識されていたわけですが、マリーザの場合影響がより直接的で非実験的なのです。こういう姿勢は中庸的になりがちで、それが先の日系ブラジル人の知り合いの「ポップすぎる」という評価につながっているのではないかと思います。

かくいうぼくも、マリーザの世界向けデビュー作「Mais」を聴いたとき、そういう印象を持ちました。特に非ブラジル人の聴き手としては、英米ロックの路線なら英米ロックを聴けば済む話であって、なにもブラジルの音楽家の作品にそんなものは期待しないわけで。だから、マリーザの音は過度に英米ポップ・ロックすぎ、中途半端なように感じられました。

しかし不思議なもので、マリーザの活動を追っているとだんだんその中庸さが好ましいもののように思えてくるのです。気負いなく、自然体で歌を歌っているマリーザに惹かれてくる。それは例えば、メジャー2作目の「ローズ・アンド・チャコール(グリー・ブルー・イエロー)」に収録の「ナ・エストラダ」で、唐突に一文だけ「Oh baby, I wanna be yours tonight」と英語詞がでてくるのに象徴的です。歌詞カードで17行ある歌詞のうちなぜこの部分「だけ」が英語なのか‥おそらく、英米ポップスの歌詞のクリシェとしてそっともぐりこませたということなのでしょうが、そのやり方がとてもさりげないというか、良い感じなんです。この曲は曲自体も英米ポップス的なんですが、オルガンの涼しげな響きとマリーザの軽やかな歌に、曲が何々っぽいというのはどうでも良いことのように思えてきます。(ちなみにオルガンはPファンクのバーニー・ウォレル‥爆)。

また、作品を追うごとに、分離しがちだったブラジル的要素と英米ポップス的要素がうまく馴染んできて、マリーザの中のブラジル性がはっきりとした形を持って提示されるようになるのも興味深いです。そういう流れを念頭に過去の作品を聴きなおすと、不思議なことにあんなに「英米ポップ・ロック的」だと思っていた楽曲にも強くブラジルを感じることができるようになります。

うーむ。なんというか、マイペースで、知らず知らずと聴き手の心の中に入ってきてしまうような。裸足のシンガー、というか。いや、実際に裸足かどうかはともかく。あと、美人です。

【活動】


あまり良く知らないす(おい)。カバー曲のみ、ブラジル国内のみのアルバム(ライブ盤だった?)を出したあと、アート・リンゼイ(参照)にプロデュースを依頼して世界デビュー。以来、現在まで、アルバムのプロデュースはすべてリンゼイです。2003年にはカルリーニョス・ブラウンとアルナルド・アントゥニスとトリオでトリバリスタスという名義でアルバムを出しました。でも最近はあまり音沙汰ないような。公式ホームページはなかなか凝ってます。

(初稿 10/17/00; 最終改訂 5/31/02)